09話.[あったりもする]

「お、西ちゃん早いな」

「約束の時間に遅れてしまったら迷惑をかけてしまうので」

「うぅ、年下の子がこんなにいい子なのに航ときたら……」


 今日はどうやら寝坊してしまったみたいだった。

 十時集合ということになっているから別にそれでも遅れているわけではない。

 それに私としてはこうして遊びに行ける相手がいてくれているだけで嬉しかった。

 どうでもいいなんて所詮はそう片付けるしかなかっただけだから。

 あの子といられるようになったのはあの子のおかげだけど、私は奥村先輩にお礼がしたい。


「やっほー、早いねー」

「高橋さんも十分早いよ」

「おはようございます」

「うん、おはよ!」


 私に優しくしてくれた高橋先輩、奥村先輩が好きだった人。

 ……高橋先輩や奥村先輩を見る度に、最初、奥村先輩に対して煽るようなことを言ってしまったことを恥ずかしく思う。

 なにも知らない後輩に自由に言われたのに怒らなかったのも原因かもしれない。


「今日は梓ちゃんは無理なんだっけ?」

「はい、佐竹先輩は用事があるから無理とのことでした」

「そっかー……どうせならみんなで楽しく過ごしたかったのにな」

「高橋さんは彼氏はいいのか?」

「うん、明浩くんも大切だけどこーくん達と過ごすのも普通に大切だから」


 もし私が奥村先輩の立場だったら高橋先輩のしていることは痛くてやめてくれって言いたくなると思う。

 佐竹先輩に自由に言われている奥村先輩だけど、私からしたら自分より遥かにしっかりしているし、強くて羨ましかった。

 なんで怒らずいられるんだろう、なんでいつもと同じみたいに言えるんだろう。

 痛いことを言われても流せてしまうし、かっとならないところがすごすぎる。

 私はずっと近くで見ていきたいって思っている。

 それで少しは活かせたらなって、……できるかは分からないけど。


「ったく、航は相変わらずだな」

「でも、基本的に約束は守る子だよ?」

「それは分かってるけどさ……」


 現時点ではまだ遅れているわけじゃないから許してあげてほしかった――って偉そうかな?

 自問自答している間に来てくれたから付いていくことに専念する。


「悪いな西、ひとりだけであのふたりの相手を任せてしまって」

「い、いえ……」

「面倒くさかったら無視すればいいからな、あ、それは俺からのもそうだぞ?」

「面倒くさくなんかありませんよ、寧ろ奥村先輩の近くにいたいです」

「そうなのか? はは、俺も心配になるから西の近くにいないとな」


 あと、奥村先輩の笑顔が好きだった。

 ……実はそれをもっと見たいからというのがあったりもする。


「おーい! 早くしろー!」

「そうだよふたりともー!」

「いま行くよ、西」

「はい」


 決してそういうのではないけど、一緒にいて安心できる奥村先輩の近くにいられるよう色々なことを頑張ろうと決めたのだった。

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