幻説現世百物語 〜沙羅農業高校オカルト研究部 空想奇譚集〜

空奈伊 灯徒

オカルト研究部

夏のある語り会の始まり

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百物語。

日本古来から知られる怪談会の一形態である。100話の怪談を語り終えると、奇怪な物事が起こるとされる。起源は定かではないが、中世の武家の肝試しにその所以があると言われている。


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沙羅農業高校のエアコンが効いたコンピュータ室の一角。その日の授業と言うなの職務を果たした生徒が自由になる放課後。ミステリ研究部部長の浅見あさみ 遥香はるかは一人モニタと睨めっこをしていた。コンピュータ室は唯一生徒がというオアシスに自由にいられる場所である。浅見以外にも生徒はという名の免罪符を基にこのオアシスに漂っている。それもそのはず今は7月中旬。外は灼熱地獄だ。そして、明日には終業式だ。もうすぐ待望の夏休みだというのに、悲しきかな。我がミステリ部はこの夏にどんな活動をするのか未だ決まっていない。浅見が所属しているミステリ研究部は、その名の通り、ミステリすなわち、不思議なことを研究する由緒正しい部活である。東に、UFO現象が確認されれたとあれば、現地での聞き込みをはじめとする現場検証を行い。西に、曰く付きの心霊スポットがあれば、本当かどうか複数のカメラを持って、検証に行き。北にUMAの目撃情報があれば、現地で実際に創作をする。南に怪奇現象があれば行って、原因究明を行う。そんじゃそこらのなんちゃってオカルト部ではなかった。我がオカルト部のモットーは、「オカルトを」だった。しかし、このような活動をするにお金がかかる。部が創設された頃は世はオカルトブームに絶頂期だった。しかし、今はそんなオカルトブームはどこへやら。いつのまにか、学校からの予算は削られ、部の経理はいつも火の車になった。もちろん、部員からの部費の徴収も少なくはない。そうなると、私の代の前から部員はだんだんと減り、部員が減れば活動資金も少なくなる。いつからか、我が部活のモットーは「オカルトを」になってしまった。

モニタに映し出されている情報を見ながら浅見はため息を漏らす。

「何をしようか。」

どうせ、部員でやるのだから大きなことをしたい。高校生らしく、青春らしく。だか、その条件に見合う情報は見つからない。浅見は、"UMA"、"宇宙人"、"妖怪"とオカルトに関わるキーワードをPCに打っていき、悩む。我がオカルト部の経済状況を鑑みると遠出はできない。遠出さえできれば、旅行もとい調査をすることができるのに。お金がかからない且つ、学校に強調できることはないのか。浅見は背伸びをした。不意に時計に目をやる。かれこれ、もう1時間は経つか。それでも、浅見は情報の海に埋もれながら考える。モニタに表示されているwedページはとある怪談マニアが管理するものだった。そのページに目を通すとある言葉が目に飛び込んできた。

"百物語"

と、浅見は「これだ!!」と思うと同時に心踊った。そうだ、百物語を検証しよう。百物語、これぞオカルトだ。夜な夜な学生で集まって怪談を話し合う、これは誰がどう見ても青春ではないか。それに、お金はかからない。

浅見は決めた。この夏は百物語を行うことを...。


***

翌日、灼熱地獄の中で執り行われた終業式は無事終わった。すなわち、明日から夏休みと言うことだ。浅見の心は踊っていた。


浅見は帰りのHRが終わると一目散に教室を出た。目指すはオカルト研究部の部室だ。部室には誰もいなかった。浅見は部室に入り部屋の電気をつけた。部屋にはコの字のように置かれた机と椅子が並べてある。浅見は窓側の入ってきたドアとは反対側の机に座り、両側の机を見ながら他の部員を待った。待つ間、近くにある移動式の白板の掃除をする。しばらくして、副部長である濵田 淳彦、通称あっちゃんが入ってきて、右側の机に着いた。それから、無口の同学年の寺田 翔太が、そして、遅れて芦田あしだ 麻弥まやと石川 健一が入ってきた。我がオカルト部は男子三人、女子一人の5人である。部員一同が揃った。オカルト研究部定期会議の始まりだだ。浅見の右側には浅見と同学年の濵田 淳彦と寺田 翔太が座わり、浅見の左側には一つ下の学年で今年から入ってきた芦田 麻弥と石川 健一が座っている。

「さぁ、全員揃ったわね」

と、部長である浅見がいう。

「そうですね。全員揃ったね」

副部長である濵田が五人を見渡していう。浅見は立ち上がり、掃除した白板に向かう。

「今日はこの夏休みで行う活動について話します」

浅見はマジックペンを持ち、白板にかく。

「この夏休み、オカルト研究部は百物語を行います。」

白板には大きな字で三文字、百物語と書かれていた。沈黙があたりを覆う。

「いや、部長。そんないきなり百物語をやると言われても...。」

後輩である石川はいった。

「石川くん。話は最後まで聞くものよ。」

と、浅見は石谷を制する。

「百物語。みんなも一度は聞いたことはあると思うけど...。一晩のうちに100の奇怪な話を語る有名な怪談会よ。この夏は百物語について調査するのよ」

浅見は四人の方を見て続ける。

「100の怪奇話を四日間に渡ってみんなで語り合う。大体、一人二十話ってとこね。」

浅見は微笑む。

「え?浅見部長。それってなんですか?」

左にいる芦田が尋ねる。

「おぉ、さすが、まやちゃん。目の付け所が違う。でも、最後に、みんなで語った話をまとめるつもりだから、これも一種の百物語でしょ。」

「うん、百物語かどうかはともかくとても面白そうだね」

横から濵田が割り込んでくる。

「でしょ、あっちゃん。それに、語ってくれるのは事実じゃなくて自分たちが考えた話をして欲しいの」

「部長。なんで、自分たちが考えた話なんですか?」

石川は尋ねる。

「さっきも言ったけど、話した話は後でまとめる。どうせまとめるなら、みんながかんがえたオリジナルの百物語を作った方がいいでしょ。」

「なるほど」

右側にいる寺田が一言言い放った。それを聞いた浅見は嬉しそうに白板に"決定"と書いた。

「みんな、この意見には好印象だね。」

濵田はいう。

「でも、部長。一つ懸念ごとが...。一人当たり20話で、それを四日分けるから、1日に5話、話すんですよね。そんなにも考えられるんですかね?」

石川が疑問に思う。

「別に全て怪談話でもなくてもいいのよ。変わった話でも、昔の話でも。それに、一週間ごとで話して貰おうかなって。それなら、1日に一話のペースで作っていけばいいでしょ?」

浅見が説明する。

「それくらいなら、できるかもしれない。」

石川が納得する。

「それじゃ、色々詳しいことを決めようか」

濵田が白板の前にたつ。浅見は濱田にマジックペンを渡し、浅見は元の席についた。

「まず...」

濵田が、白板に決まっていることを書き出す。

「こんな感じかな?」

近くの浅見に了承を取る。

「そうね。次は、日時を決めたいんだけど....」


こうして、我がオカルト研究部のこの夏の活動方針が決まっていった。オリジナルの百物語。皆楽しく、話し合いに参加している。この様子を見て浅見は安心していた。


「大体、こんなものかな」

濱田は白板をみんなに見えるように屈んだ。白板には創作であること、話すときは蝋燭型のライト持って話すなどの百物語のルールや、細かい日時などが書かれていた。

「こんなところかしらね?」

浅見は白板を見ながらみんなに疑問を投げかける。


「あっ」

芦田が声を上げた。

「そうだ、これ。最後にまとめるんでしたよね。なら、その時の名前を付けた方がいいじゃないですか」

「まやちゃん、いいね。じゃ、名前は...。」

一同は考え込んだ。周りを沈黙が覆う。

浅見がこの沈黙を掻き消した。

「空想の百物語だから....幻って言葉はいるわね。 そうね。巷説百物語を文字ってなんてどうかしら」




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