恋人同士は他人同士
シヨゥ
第1話
一度のすれ違いが僕らを不幸にした。
あんなに仲の良かった彼女と僕。今では会話の糸口を掴むのも難しい。
もどかしくて、イライラして、またすれ違って。本音が言えないまま時間だけが過ぎていく。
それが嫌で嫌で。
「本音で話し合おう」
そう提案した。
夕方より少し前の自動公園のベンチで待ち合わせ。
子どもたちのにぎやかな声が心を和ませる。
僕が自分に課したルールは一つ。否定しない。それだけだ。
彼女がやってくる。彼女も僕に気づいたようで少し足早になる。
そんな彼女と僕の間をボールが抜けていく。
「すみませーん!」
ホームラン級のあたりが飛んできたようだ。
「気をつけて!」
そう叫んで子どもたちにボールを投げ返す。
「それじゃあゆっくり話そうか」
そして固まっていた彼女にベンチに座るよう促した。
2人でベンチに座る。しかし会話が始まることはない。それどころかぼんやりと先程の少年たちを眺めてしまう。
「無邪気だね」
彼女がポツリと言った。
「そうだね」
と僕は返す。
「僕たちも昔はあんなだったね」
そう僕が投げかけると、
「そうだね」
と彼女は返す。
「昔は気持ちもストレートに伝えられたのに」
そう投げかけると、
「分かる」
と彼女は返す。
「今何を思っている?」
と投げかけると、
「ごめん、と思っているかも」
と返ってきた。
「そっか」
と返すと、
「君は?」
と返ってくる。
「ごめん、と思っている」
「誰に対して?」
「それは君に対してと、僕自身に対してかな」
そう言って僕は体を彼女に向けた。
「まずは君に対して。いっつも理解しきれなくてごめん。たぶん今僕がいった『ごめん』も君が理解してほしい半分も理解できずに謝っていると思う」
「そっか」
「次に僕自身に対して。これは今話したことを君に伝える勇気が持てなくて、時間ばかりをかけてしまってごめんってところかな」
「そっかそっか」
彼女も僕に体を向けた。
「私のごめんも、あなたの言ったごめんとほぼ同じようなものだと思う。感覚の差はあるけどさ。やっぱり理解したいんだ。このまますれ違い続けるのも嫌だし」
「それじゃあとことん話し合おう。あの時何を思ったからああいう行動をしたとかさ、それを見てお互いがどう感じていたのかとかをさ」
同じ気持ちであることが嬉しくて、会話のラリーを終わらせたくなくて、僕らはようやくお互いの話をし出した。で互いの主観と客観をぶつけ合い、ズレを理解し、思い込みを修正していく。そんな作業じみた会話がたまらなく心地よかった。
手をつなぎ公園を後にする。もはや会話はいらない。今この瞬間僕らにズレはなくなっているからだ。
恋人同士とは言え他人同士。「分かるだろう」「分かってよ」で上手くいくほど優しくない。
互いに胸の内をさらけ出しあってこそなのだ。
僕らはこれからも折に触れてさらけ出すことを止めないのだろう。
それがお互いのためだと強く理解したからだ。
恋人同士は他人同士 シヨゥ @Shiyoxu
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