人生反転

第1話

　僕はどちらかといえば平穏愛好家だ。

　挑戦とは無縁な人生を歩んできたと自負している。リスクは好まず、確実につかめる未来をつかんできた。その他大勢から見たらきっとドラマのない地味すぎる人生。その積み重ねが今日の僕を作っている。

　ただたまにそんな人生に味気なさを感じる時があった。それは自分を客観視してしまうぐらい暇で暇で仕方がない休日だったり、ひどく落ち込んだりした時だったり。

　今日もそんな日だ。これまでの人生をざっと紙に書きなぐってみるぐらいに暇だった。いつもなら「こんな物作って何になる」と冷静になり、この超大作をゴミ箱に捨てて昼寝でもしているだろう。だが、なぜか今日はそんな気分になれずじっとそれを眺めてしまった。

　定規で真っ直ぐな線を引いたかのような凹凸のない人生に今日はなぜだか苛立ってしまう。ホルモンバランスでも崩れているのか、それとも齢の１の位が9を超えて0に戻ったためか。理由はわからないが今までの人生に「ノー」を突きつけたい。そんな思いがどんどんと強まっていく。

　寿命は誰しもが平等に削られていくのだ。息を吸って吐く一瞬も寿命の一部。そう考えると平穏で代わり映えな毎日でゆっくりじわじわ時間を消費するよりも、刺激的であっという間に時間が過ぎていくような毎日で一気に時間を消費したほうが生を実感できるのではないか。

　抑えられそうにない衝動は行動を生み、行動は結果を生む。

　僕の場合。衝動は退職届を生み、退職届は無職を生み出した。まず一波乱。この波に乗り切れるかは僕次第。そんな冒険的なワクワクが脳内麻薬をドバドバ生み出している。

　狂戦士にも似た僕の冒険はまだまだ始まったばかりだ。