第23話 ピクニックという名の反省会
三人に正論で淡々と事実を突きつけられたグリーンは、頂上にたどり着いても肩を落として落ち込んでいた。
もちろん岩の壁を登ることはなく、迂回して比較的なだらかな道を選んで進んだ。
まだまだ説教し足りない三人は黙々と登り、グリーンはずっと落ち込んでいる、そうして今までに無いぐらい空気が重かった。
一番後ろでみんなの様子を見ながら、この空気が明日以降も続くのかと、こっちまで気が沈んできた。
そんなお通夜状態のままで頂上に着き、空気が変わらないまま持ってきていたお弁当を広げて食べている。
本当ならば美味しいはずのおかずの数々も、どれを食べても全く味がしない。
まるで機械作業のように一定のスピードで口に運び、味わうことも無いまま食べ終わった。
これじゃあ作ってくれたレッドに悪いと思ったが、他のみんなも同じような様子だったから見逃してもらいたい。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて挨拶をし、お弁当を片付けると、ピンクが勢いよく手を挙げた。
「こういう状況だから、言っておきたいことがある。今日の朝、僕が虫が怖くて叫んだみたいに、誰にだって苦手なものや出来ないことはあるでしょ。それを言うのは恥ずかしかったり、馬鹿にされたりするかもしれないって不安があっても教えて欲しいな。だって僕達、命を預けるぐらい信頼している仲間なんだからさ」
「……ピンクさん」
「俺も同意見だ。さすがに、全てをさらけ出せとまでは言わない。でも今回のように、命に関わるようなことは、何かが起こる前に言ってほしい」
「やる前に気づけなかった俺達にも非はある! 一言でもいいから聞いていれば、こんなことにはならなかった。クロがいなかったら、本当にどうなっていたことか分からないな……」
ピンクに続くようにブルー、レッドと意見を言ったので、俺だけ何も言わないのは悪いと思って口を開いた。
「俺だって言いづらいこととか、隠していることとか全く無いとは言えない。苦手なものはあるし、やりたくないことだってたくさんある。全部は、たぶん教えられない。それはみんなを信じていないからじゃないことは分かってほしい」
一番の大きな隠しごとは、ここにいるレッド以外は知らない。
巻き込みたくないからという理由を、みんなは納得してくれないだろう。それが分かっていたとしても、今は言うことが出来ない。
そう考えればあまりグリーンに強く言えない部分が出てくるが、俺のは言ったらみんなを危険に晒すかもしれないということで、悪くないというふうに自分を甘やかす。
「それでも今回の件で、言わなくてもいいことと伝えなきゃいけないことがあるのを知った。それを間違えて自分が死ぬのも、誰かが死ぬのも絶対に嫌だ」
あの時、冷静に対処できたように見えたかもしれない。
でも終わった今、場面を思い出すだけで震えが止まらなくなった。
俺の手も届かなかったら、掴んだ手が外れていたら、ちょうどいい木の枝が無かったら、今回助かったのは運のおかげも大きい。
「ねえ。どうしてあの時、自分から高いところが苦手だって教えてくれなかったの?」
ピンクは今にも泣きそうなグリーンの手を取った。手を握られて、グズグズと鼻を鳴らしながらグリーンは答える。
「み、みんなの邪魔をっ、したくなかったからですっ。せっかく強くなるために、鍛えているのにっ、俺のせいで駄目にしたくなくてっ。ロボットに乗っている時とか、戦っている時は高くても平気だから大丈夫だって思って……」
「……そう。僕達のために……」
「はい。迷惑をかけ」「そんなの誰も頼んでないよねっ!」
「っ!!」
凄い。手を掴んで逃げられないようにして、勢いよく頬を叩いた。
かわいた音が鳴って、グリーンは目を見開く。
でもなんで叩かれたのか自覚しているからか、唇を噛み締めてうつむいただけだった。
「僕は、僕は悔しい。甘えてほしいって待ってばかりで、グリーンを危険な目に遭わせた。言えなかったのは、それぐらい僕達が頼りなかったからでしょ」
「それは違いますっ。僕が、みんなに幻滅されたくなくて言えなかっただけなんですっ。高いところが駄目なんだって分かったら、イケメンジャーにもいられなくなるって、よくよく考えたらそんなことないって知っているのに……それなのに、本当にごめんなさい……」
ボロボロと涙を流したグリーンのことを、ピンクは強く抱き締めた。
「僕もごめん。待ってないで、たくさん話をすれば良かったよね。そうすれば、こんなことにはならなかったのに。本当にごめんっ。怖かったよね。すっごい怖かったよね」
「僕が悪いんですっ」
「いや、僕だってごめんね! これからはもっと頼って! たくさん話をしよう!」
「……はいっ!」
ピンクも同じように泣いていた。
お互いに涙を流しながら抱き合う二人の姿は、今までに無いぐらいの絆を感じさせた。
きっと、これからのイケメンジャーは強くなる。
そう分かっているからこそ、レッドもブルーも俺も何も言わず、その様子を見守っていた。
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