第4話。作戦パート2。

 ドミニク大尉が何やら呟いているのが聞こえた気がしない訳でもない。

かなりノイズ混じりだったため部下たちは通信の乱れ程度の認識だろうが、それでいい。

あの部隊は殲滅されて貰わなければならない。

生き残るのは私だけ。

あと、可能ならモンタニュウスも。あ、本当に可能ならだ。

それにしても敵司令室付近を飛行中にも関わらず、対空防御兵器は愚か魔装兵すら見当たらない。


「少尉、敵兵の信号をキャッチできたのですが、暗号化されてはいるものの既に王国情報部内で解析が終了している古い物です。この敵侵攻司令室自体がダミーである可能性を憂慮します」

「モンタニュウス、少しは頭を働かせろ。ここは主戦場から遥か彼方にあるのだぞ。敵帝国軍人たちは司令室が見つかる可能性を少しも考えなかったのだろう。兎も角、叩いてみれば分かるさ。私は高確率で当たりだと睨んでいるがね」


正直な話、敵から滲み出ている、やる気の無さというのか怠惰感に困惑を隠し得ない。これは戦争なんだぞ。ごっこ遊びじゃないんだと説教の一つや二つ、言いたくるのは私だけだろうか。もしあの仮施設が敵司令室なら爆裂式一発で灰燼と化す。伏兵がどこからにいる可能性もあるのだが、ここまで接近し対魔装兵器である魔力探知機に反応するようにわざと魔力を限界まで活性化させているにも関わらず、何ら動きがないの事を考えるに、敵航空兵力及び魔装兵力や機動兵力は皆無なのだろう。


そもそも、我々の存在に気づいているのかすら怪しい。


現に護衛と思われる兵士が数人、双眼鏡を片手に辺りを見回しているのが二人、懐中電灯を持っている哨戒中の兵士が数人見えるのだが、警戒態勢を取っているわけでもなく談笑している。他は司令室内にいると思われる侵攻軍の指揮官ら数名だろうか。


これ以上に簡単な任務があるのだろうか。

赤子の手を撚るなどという表現ではおこがましい程だ。


だが簡単に攻略してしまうとドミニクの部隊が全滅する前に、それどころか活躍すればするほど上からの覚えがめでたくなり馬車馬の如く働かせられるだろう。


けれどもガルー少尉は無思慮に敵司令室へ突撃し、大被害を被った無能な指揮官という烙印はなんとしても避けたい。十二分に警戒しつつ事に当たらねば。

慢心こそ、我ら軍人の最大の敵だろう。

結局、私に残されている選択肢は一つしかない。


「各員停止。長距離式こめろ。術式展開」


ふむふむ、なかなか、いや、なかなか......モンタニュウスより使えない屑共!

ただ弾丸を変えてこめるだけだろうが。何をもたついているのか理解できない。

あの、モンタニュウスでさえ再装填ぐらいは簡単にこなしてみせる。

普通の銃とは少し違うのが理解できるが正規兵たる者たちが、なんたる...

王国魔装兵は大陸中でも錬精度の高い精錬された軍隊のはずでは。


「貴様ら、弾込めすらまともにできないのか?そんな無能共に国王陛下と我らが国に使える資格など皆無。帰投したら自害なり退役しろ。しないのなら私が除隊させてやる」


軽く脅したつもりなのだが、ビビリすぎだろ。


「少尉、各員準備完了しました」


モンタニュウス、お前のそれは勇敢なのか鈍感なのかいつか見極める必要があるな。

それとも私の怒りは周囲を威圧するほどではないのか。


「諸君、我々の領内を侵攻する忌まわしき帝国に敗北という名の、早めのクリスマスプレゼントをあげようじゃないか」


まだ秋で早すぎる気もするが、プレゼントは貰って嬉しいものだろうな。


「狙え……ってええええええええ!!」


一斉に発射された十一本の青白い線が真っ直ぐと敵陣営へ伸びていく。

税金を食いつぶす無能な豚共の巣窟を私と私の部下が焼き払うのだ。

帝国国民からは褒めたたえられるべきじゃないのか。

その代償として多少、実験をさせて貰おう。


私が放ったのは特別製の魔力弾なのだ。

一発撃つだけで世界平和機構から査問委員会が設けられて、最悪の場合は一級戦犯として絞殺、銃殺、毒殺、という多様なオプションを与えられて死ぬ事が許可される、そんな代物。

だが、目撃者がいなければ何の問題もない。

出力を最低限に絞ってるので他の長距離式の影響で何も残らないだろう。

と思考している内に長距離式が着弾し、爆ぜた。


わざわざスコア稼ぎに付き合ってくれている敵には感謝しかない。


「モンタニュウス二等兵以外はドミニク大尉の部隊と合流せよ」


ドミニク大尉は部隊を全滅させた汚名を背負ってこの世からご退場願うとしよう。


「さて、モンタニュウス君、君は世界平和機構にて平和ボケしたご老人たちが定めた戦争のルールを知って

いるか?」

「はっ、全てではありませんが最低限のものならば記憶してあります」

「そうか。私は人が始めた戦争に対して、なぜ同じ人間がルールを定めるのか不思議でならないと常日頃から思っている。ルールなんていうものは、抜け穴を通られたり、裏をかかれたり、暴力に訴えられてしまえば簡単に破られてしまうのにな。だが、そんな脆い物に人間は縋り、違反する者たちに対してルールをまるで正義のようにかざし、己が行う違反行為を正当化する。何が言いたいか、私はこれからルールを破るから黙っていろという事だ」


ちょっと自分で言っていて意味が分からなくなってきたので一旦中断する。

話す前に言いたいことを考えてから話せと学校の先生が言っていたような気がする。


「小官は何も聞かず、見ていない事に致します」


モンタニュウス......長い名前だ。

モンタ君は物分りが良くて大変使いやすない。しかも、盾としても有用だ。

緊急事態以外は手元に置いておけば二つ名ペアとして昇進待ったなしだな。

他部隊が全滅した中で自身たちがボロボロになりながらも敵を潰す。


最高。


「実は君らが掃射する前に特殊な回復式を私が敵司令室へ撃ち込んでいたのだ。気にならないかね、もし長距離式と私の特性回復式が同時に敵に当たったらどうなると思う。回復してから死ぬのか、それとも死にながら回復するのか、あるいは……死んでから回復するのか」


モンタ君もようやく気づいたようで何より。


「簡単な生理実験だよ。仮に誰かが生きていたら殺すし、死んでいたらそのままだな。さてさて、上が望む答えを得られるか気になるところだ。急ごう」


おいおい、そんなに青ざめないでくれよモンタ君。

我々は国に仕える軍人なのだよ。

国益のために自国民を犠牲にするのは愚の骨頂、ならば丁度良いタイミングで侵攻してきた敵を使うのは当たり前。


「いくぞ、モンタニュウス二等兵。その程度でたじろぐなど王国軍人として情けない限りだぞ」


 結果的には上が考えているような事は起こらなかった。

やはり”不死者””の軍団を作るなど、夢のまた夢、幻想にすぎない。

私が着弾のタイミングを完璧に合わせたのだが何も起こらなかったという事は何も起こらないのだろう。


「成果はゼロ。念のために記録を取っておくか。おい、モンタニュウス、その死体から臓器と肉片を少量ずつ回収しておいてくれ。何だその嫌そうな顔は、ただの死体だぞ......おいおい、泣きそうな顔をするんじゃ......そうだ、やればいいんだ」


肉の焼ける匂いは良いのに、人が焼ける臭いは嫌いとはいささか矛盾しているではないか。


男女の判別もつかない肉塊と化しているのだ、生焼けだろうが半焼けだろうが関係ないだろう。モンタ君は意外と繊細な奴なんだな。


「痕跡を消すのを忘れるな。それにしても派手にやったな、砂塵が舞っていてなかなか周りも警戒できな

い。無論、周囲が見えない状況下での長居は禁物。戻ろうか」


おそらく、いや確実に、囮部隊と援護にいった本部隊は消されているに違いない。

私達もどこかで戦闘し、ある程度損耗している方がいいな。

ついでに敵を数小隊ぐらい屠れれば最高だな。

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