第6話 ニッパル王国へ

親方主導の下、村の復興作業と葬式が行われた。60人近くいた村人の半数が黒い球体に取り込まれた。その中にはシエラと母さんも…。


うちの村はシンパラン教を崇拝しているため葬式はシンパラン教の方法で執り行われる。主神シンパランの下へ、安全に行けるように死者の灰を篝火かがりびの中へ入れる。


だが、肝心の死者の灰が無いのでどうしようか迷ったが、神父様が「この場合は死者の持っていた物を燃やして灰にします」とのことでそのように進んだ。


みな故人の持っていた物を持ってくる。そして、順番に火にくべていく。火はマーリン師匠が用意してくれた。とんでもなく熱い炎だ。


「ッ!待ってシエラの母さん!」

「シロウくん!?」


シエラの母さんの持つ物を見て思わず声をかけてしまった。それはしおりだった。しわくちゃになって今にも切れてしまいそうなユリの花びらの半分を押し花にしたしおりだった。


「これ…。なんで…。」

「これはね、娘が1番大事にしていた物なの。いつもこのしおりを大事そうに持ち歩いてね。一度ゴミだと思って捨てようとしたらすごく怒られてね…。」


シエラの母さんがしおりのエピソードを話してくれる。どれだけ彼女にとって大事だったのかを。


そのしおりは俺と一緒に作ったしおりだ。村の近くの草原で遊んでいる時に見つけたユリを半分にして2人でマーリン師匠に頼んで押し花にしてもらった。


「シエラ…。シエラとその時、約束したんです。」

「約束?」

「このしおりが使えなくなるまで2人で支えて合おうって。俺はその約束を破ったんです。いつもあいつに支えられているのに肝心な時に支えてやれなかった。」


そう俺は破った。彼女との約束を破ってしまった。だが、彼女はそれでも俺を支えてくれた。

それに報いなければ死以外の方法で。最大限の感謝を込めて。


シエラの母さんに謝罪をして、父さんの下へと戻る。父さんは母さんの大事にしていたかんざしを持っていた。その綺麗なかんざしは、父さんが母さんと結婚する前に王都で買ってくれたものだと母さんはいつも自慢していた。本当に仲のいい自慢の両親だ。


「シロウ。俺との約束、覚えてるか?お前が村に入ったら俺はお前を殴るという。」

「!うん。覚えてるよ。」


そう言うと父さんは俺のことを強く抱きしめた。


「お前は約束を破った。そして、俺もこうやってお前を殴らず抱きしめている。これでチャラだな。」

「…聞いたよ。みんなのために体張って頑張ってくれてたんだってね。シロウは本当に強くなったね…。」

「父さん…。兄さん…。」


涙がほろほろと出てきた。まだ、俺には残されていた。家族が大好きな父さんが、兄さんが。

そして、その人たちの愛情を一心に俺は受けている。いつもの父さんの温かな抱擁に包まれてそう思った。


********


葬儀が行われ、翌日から村の復興作業が始まった。あまりにも村がボロボロな為、各々寝るところがない。このままだと雨風に打たれて死んでしまう。


村のみんな総出で一つ一つ家を建てていく事となった。


−5日後–


簡易的な家が全家庭に作られたころ、馬に乗った10人の兵士が村を訪れた。


そいつらはニッパル国のグリーンソルジャーだった。マーリン師匠が送った電報を受け取り飛んで駆けつけたらしい。


「『マーリン・カサブランカ殿。目撃者を連れて至急ニッパル国へ参られたし。対策会議を開くため貴殿にも出席いただきたい。』との事です!」

「あい分かった。準備する。シロウ!お主も行くぞ!」

「は、はい!…でも今若いのが抜けたら。」


ただでさえ家づくりや本業の鉱山や農業で人手不足だと言うのに、今抜けてしまったら村の復興が遅れてしまうじゃないか。


「なあに心配するでない!ここの村の男衆は他の村よりも屈強じゃよ。お主のようなヒョロガリが抜けてもなんともないでの。カッカ。」

「「その通りだ!」」


村の男が一斉に言う。これはこれで泣きそうになるな。


「まあそういう事だ。行ってこい。ヴァルドラグの拠点は王国だろ?下見はしとかねえとなぁ!」


父さんが俺の背中をバンバン叩く。


「痛たた。そうだね。うん。そうだ。…行ってくる!」

「シロウ。」

「兄さん…。」


振り返ると兄さんが悲しげな表情で立っていた。だが、その表情も一瞬ですぐにいつもの明るい兄さんになった。


「いってらっしゃい!村のことは気にしないで。また戻って来れるんだから。」

「うん!」

「…それではお二方の身支度が整い次第王国へ向かいます!村の入り口にてお待ちしております。」


そこから家に戻って身支度を整えて村の入り口へ向かう。入り口にはもうマーリン師匠がいた。


「P陣形じんけいを組め!…それではお二方、中の馬へお乗りください。」

「すっげえ…。」


隊長らしき人が号令を言うと、一糸乱れぬ動きで陣形を組み、8人が外で2人が内側に動いた。


そして、馬に初めて乗ったのだが不安定な感じがなんともいえない。


「これから、ニッパル王都へ向かう!全体進め!」


生まれ育った村がどんどん遠ざかっていく。寂しさが込み上げてくるが我慢だ。

それにしても王都か…どんな所だろう。


──そうだ。それよりもまずはあれを言わないとな。さっきは言いそびれちゃった。大きく息を吸って、



「行ってきます!」


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