うちのケモミミロリメイドとの日常
古代紫
メグとドライヤー
大学の授業をこなし、バイトで汗水たらしてへとへとになった体を引きずって自宅のアパートの階段を上る。
難しいうえに眠くなる授業、夜の飲食店における肉体的にも精神的にも負担の大きいバイト。
そんなストレス社会では毎日が憂鬱になるというもの。
だが、だが!
俺には癒しがある!
意気揚々と玄関のドアを開けると、部屋の奥からドタドタドタと大げさな足音が迫ってきた。
「ご主人‼ お帰りなさあああああい‼」
「ただいまメグ!」
小柄な影がぴょーんと胸に飛び込んできたので、俺はバッグを放り投げてソレをキャッチする。ついでに大げさにわしゃわしゃわしゃと頭を撫でまわす。ついでに頭のてっぺんにピンっと立つイヌミミももふもふもふ。
「わふわふわふ。ご主人くすぐったいよ~」
「相変わらずのモフモフだな。撫でてて飽きないな」
出迎えてくれたのは頭にイヌミミを付けたメイド姿の女の子――メグだ。
先日、山でぼろぼろになってお腹をすかせたところを拾ったところ、妙に懐かれた。その後いろいろあって、今では一人暮らしの俺の家で住み込みメイドさんをしてもらっている。まぁ、彼女はまだ幼く、家事はほとんどできないのだが。
家事ができないのになぜメイドかって? もちろん趣味だよ。ケモミミロリメイド、最高じゃないか。
「おら、わしゃわしゃわしゃ」
「もっともっとお願いします。へにゃ~」
メグは頭を撫でられるのが好きだ。特にイヌミミを撫でられるのは特にお気に入りのようで、触られるとすぐにへにゃへにゃになる。だが、蕩けた顔とは対照的に、スカートから飛び出る尻尾は左右にぶんぶん振れていた。
一通り撫で上げ、体から力の抜けたメグを床におろしてから、ようやく靴を脱ぐ。
「あのねあのね、ご主人聞いて!」
「おう、なんだ?」
「今日ね、お洗濯したんですけど、いつもよりきれいに洗濯物畳めました!」
「お、それはすごいな。畳み方覚えたか」
「うん! あとで見てください!」
と、その時どこからか盛大な腹の虫が聞こえた。
俺の腹ではない……と見下ろすと、メグが顔を真っ赤にしてうつむいている。
「おし、すぐにご飯作るぞ。今日はハンバーグだ!」
「わーい、メグもお手伝いします!」
帰り道に寄った近所のスーパーのビニール袋を掲げると、メグは飛び上がって喜んだ。
ピコピコ揺れる耳とフリフリ揺れる尻尾。そして、太陽もかすむほどの明るい笑顔。
メグを見れば疲れなんて一瞬で吹き飛ぶってものだ。
俺はメグが我が家にやってきてから練習し始めた自炊の成果を発揮すべく、台所に向かう。
夕食ができるまでの間、うちの可愛いケモミミロリメイドは俺の腰に引っ付いたままだった。
◇◆◇◆◇◆
「ご主人、お風呂あがりましたー」
「お、そうか、ちゃんと髪は乾かしたか?」
ソファーでのんびりテレビを見ていると、お風呂から上がったパジャマ姿のメグが神をしっとりさせて出てきた。
見ると、彼女の腰まで届く長い黒髪はまだ湿っており、イヌミミも尻尾も十分乾ききっていなかった。
「うぅ、まだです」
「ちゃんと髪は乾かせよ。タオルに当ててな」
「うきゅ~。ご主人やってぇ。手が届かないんです」
「しょうがないなぁ。ほら、来い」
自分の隣に座らせて、彼女の手からタオルとドライヤーを受け取る。
「ブラシは?」
「あい! ちゃんと持って来ています!」
「よしよし」
メグの髪の毛はとても長く、彼女一人では手入れが難しい。一緒に住み始めてしばらくしてからは、風呂上りはこうやって彼女の髪の手入れをしてやることが日課になっていた。
「いつかは自分でやれるようにならないとな」
「わふぅ~。だって手が届かないんです。後ろも見えないし」
「そうだとしてもずっとこのままだと困るだろう」
「じゃあずっとご主人にやってもらいます! これで解決です!」
俺の胸にもたれかかって顔を上げると、メグはにぃ~と笑った。
一生の日課が決まった瞬間だった。
「こら、髪乾かせないだろ、ちゃんと座って」
「わふ! はーい、ごめんなさーい」
タオルで水分を吸い取り、ドライヤーで丁寧に乾かす。髪、耳、尻尾で髪質も毛量も違うため、ドライヤーの強弱を使い分け、髪が痛まないように気を配る。
「メグ、熱くないか?」
「あい! きもちいーです!」
「それは良かった」
一通り乾かし切り、最後に櫛とブラシを使って髪と尻尾を整えていく。
メグの頭にはイヌミミがあり、ここだけ髪質が違うため、少々手間がかかる。ブラシを櫛を持ち替えて丁寧に梳いていくのは大変だが、メグの気持ちよさそうな様子を見ているとそれも気にならなくなる。
尻尾をブラッシングして、毛並みが整ったことを確認してようやく終了だ。
「おし、終わったぞ」
「わーい、ありがとうございます!」
「ほら、タオルとドライヤーとブラシ、片付けてきて」
「はーい」
メグは器具を受け取ると、パタパタと脱衣所に向かう。背中に揺れる尻尾はもう見慣れた光景だ。
彼女と初めて会ったときは、彼女の耳と尻尾にぎょっとしたことをよく覚えている。
その日は雨が降っていて、妙に寒かった。女の子を拾うなんて完全に事案だが、土砂降りに打たれてべそをかく彼女を見ると放っておくことはできなかった。警察に連れていこうにも、彼女にはイヌミミと尻尾がある。仕方なしに彼女を家に上げ、風呂と食事を与えて世話をしていたら、今ではすっかり懐かれている。
「……メイド服着させているけど、俺のほうがお世話しているもんなぁ」
ま、かわいいからいいけど。
「あの、ご主人」
「ん? どうした?」
「あのね、あのね。今日もね、えっと……」
「……今日もか?」
「うん、やっぱりね、ご主人のそばで寝たいなぁって……ダメ?」
毎夜のことだ。
彼女が添い寝をおねだりしてくるのは。
いい加減、自立させないとなとは思っている。
一人で寝れるようにさせなくてはいけないし、髪も自分で手入れできるようにならなくてはいけない。
けれど、上目遣いで耳をぺたんとさせながら必死にお願いをしてくる姿を見ると……
「しょうがないな」
「わーい、やったー! ご主人だいすきー!」
断ることなんてできないんだな、これが。
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