夢 1

 I Have a Dream

 私には夢がある……。


 今日もアキコさんの帰宅は、夜中の1時をまわった頃だった。


「ただいま。ごめんね、お腹すいたよね」

「ミャ~」


 私はアキコさんの足に体をすり寄せそう言ったが、疲れきったアキコさんの行動の邪魔にならぬよう、すぐにその場に腰を下した。


「ごはんごはん」


 アキコさんは真っ先に私の餌を用意し、私が食事する姿をしばらく見つめていた。

 私は食べることに夢中になっているふりをしたが、明らかに元気がないアキコさんが気になり、その横顔をちらちらと見てしまった。


「ん? どおしたの?」


 アキコさんはそう訊いて首を傾げたが、やはり、その顔は以前とは違っていた。

 以前は、「ただいま」のときも「ごはんごはん」のときも、私の食事を見つめるときも、私がアキコさんを見ると「ん? どおしたの?」と訊くときも、常に、アキコさんは笑顔だった。

 以前はアキコさんは明るく元気で、仕事から帰ってきたら真っ先に私を抱き寄せ、満面の笑みで頬をすり寄せた。

 ……以前は。

 

 コンビニで買ってきたであろうサンドイッチをひと口ふた口食べ、シャワーを浴び、しばらくぼうっとテレビをながめ、アキコさんはベッドに入った。

 しばらくして、私はアキコさんの隣で体を丸めた。

 アキコさんは布団から手を出し、私の背中をそっと撫でた。数日前ならこのタイミングでアキコさんは泣いていたのだが、最近ではそれすらもなくなった。

 アキコさんはただただ私を撫で、じっと、ずうっと、ただただ一点を見つめていた。


 ……この半年間、アキコさんは笑っていない。

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ネコ文明 虎ノブユキ @kemushikun

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