君の紅茶と僕のコーヒー
「彼女がどうやってカンニングするか、だよね?」
「そう」
「まずこの方法は現地に行かないといけない」
「それはどうして?」
「今回は特殊な状況が中国で起こってる。伝染病が流行ってるから。戻ることはできてもあっちからの日本への入国はできない。また日本側も入国できないから現地への監視が甘くなってる可能性があるって彼らは噂していたね。そしてみんなマスクをつけてる」
「マスクの内側にカンペでも仕込んどくのか?」
「いや、それだと確実に受かれるかはわからないだろ? アナログすぎるよ」
「じゃあデジタルな方法か? たとえば超小型の無線機を耳に入れておくとか?」
「まあどの方法でまではわからないとフェアじゃないか。ヒントはね、アナログでもデジタルでもない方法だよ。いや、本当はどちらでもある。そういう方法。もう一つあるだろ、代表的な方法が」
カンペでもなく、ハイテク機器の利用でもない。なら他にはあと2つ方法がある。一つはシンプルに覗き見。でもそれはアナログな方法だ。カンペと変わらない。それに仕掛け人と確実に連番となって覗けるかわからない。なら残るは…
「替え玉か…」
「替え玉っていうんだ? ラーメンみたいだね。そう、彼女は替え玉、つまり違う人が彼女の代わりに受験するのさ」
「替え玉ってどちらかというとアナログの方法じゃないか?」
「まあ、そのやり方については今から説明してくよ」
確かに実力のある人が受ければ、合格するという点においてはかなり成功確率は高い。しかも現状日本への入国ができないのなら、この方法は確かに現地に赴くしか方法はない。が、
「超ハイリスクじゃないか」
見つかった場合、2人は確実に罪に問われる。一度に2人だ。リスクが高い。
「さすが100万円のビジネスだよね」
「替え玉の場合、最大のリスクは受験生と替え玉が同一人物ではないということがバレることだろ? 試験中は他の不正行為を犯すことはないだろうし」
「そう、別々の人物がバレないようにするにはどうしたらいいか? それが今回の謎としようか」
「服装寄せるとか? 変装するとか? あ、今回はマスクしているのなら、マスクして眼鏡したらだいぶ誰かわからなくなると思うけど」
疫病が流行っている今、マスクをとってまで顔の確認はない可能性が高い。集団感染したら管理者の実施手順が問題になるからだ。
「でも…それでもバレるかもしれないよな」
より確実に、どうやったら天の網をくぐり抜けれるだろうか?
「似せる必要なんてないのさ」
そういうと希は自分のコーヒーを前に置き、それから手を伸ばして今度は俺の飲みかけの半分の紅茶をその隣に置いた。
「似せる必要がない…?」
「うん。例えばこれが浩然の紅茶でしょ、でこれが僕のコーヒー。似ても似つかないでしょ? 量じゃなくて色を見てほしんだけど」
「は…うん」
色で言えば“茶色”を連想されることも多いこの二つの飲み物も、黒と言っても過言ではないほどのアイスコーヒーと、オレンジ色に近いほど明るい紅茶では完全に見た目が異なる。
希はコーヒーを持ち上げ、視線をコーヒーに落としながら、
「どちらがコーヒーか紅茶か。いまは解る。けどこうしたらどう?」
と言うと、そのコーヒーをおもむろに傾け、おれの紅茶の中へ注ぎ入れた。
「え!」
紅茶とコーヒーが混じり合った。
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