第685話 ファイの苦悩

泣き止んだクラルは恥ずかしそうにしている。

「あ、あの、ヨシノブさん、すみません、胸元を濡らしてしまいまして。」

「気にしないでください、それより大丈夫ですか?」

「はい・・・確かにショックでしたが、会うこと自体は出来ましたし、それに私の家族はこの世界にいるんです。」

クラルの目にはチカラが戻っており、一応心に

をつけたように見えた。


「無理はしないようにね、悩むような事があればいつでも聞くから。」

「はい、その時はお願いします。」

俺とクラルは二人で応接室に戻る。


「クラル様!貴様!クラル様に何をした!」

侍女のマルマが激しい怒りとともに俺を睨んでいる。

「止めなさいマルマ!ヨシノブさんは何もしておりません。

むしろ私を慰めてくれたのです。」

クラルは抱きついていた事を少し思い出し頬を赤く染める。


「な、慰めて・・・なんと、魔王様になんと報告すれば・・・」

マルマは赤く染めた表情を見て、ショックを受け膝を床につけている。


「マルマ、ヨシノブさんに失礼な事はしないようにしてくださいね。」

「クラル様・・・ヨシノブ様と何があったのかお聞きしても・・・?」

マルマはチカラつきながらも使命を果たさねばと勇気を振り絞りクラルに聞く。


「なにがって・・・そんな恥ずかしい事は言えません。」

クラルはヨシノブに抱きつきの胸元を借りて泣きわめいたなど、恥ずかしくて人に言える物では無かった。


「は、恥ずかしい事があったのですか・・・」

「もう聞かなくていいでしょ、私も言いませんから!」

クラルはここまでと言った感じで話を終え、テーブルに用意されてあったケーキを他のみんなと一緒に味わう。

残されたマルマは膝をついたまま、絶望にうちひしがれていた。


「クラル様、少し聞きたいのですけどいいですか?」

ケーキを食べながらファイが質問する。

周りには女の子しかいない。

「ファイ、なんでしょう?」

「ヨシノブさんに惚れました?」

「えっ、ゴホ、ゴホ・・・そ、そんな、いえ、でも嫌と言うわけではなくて・・・」

ケーキが気管に入ったのか咳き込みながらも否定と言えないような発言をする。


「あー、わかりました。すべてはあの天然さんが悪いんですね。」

「てんねんさん?」

「はい、女の子をすぐに落としてくるダメな人です。」

「そんな、わたし落とされて、落とされて・・・

いませんよ?」

クラルの語尾は小さいものであり、顔を真っ赤に染めている事で説得力はなかった。


「頬を赤く染めながら言っても説得力ないですよ。まったくヨシノブさんの悪いところです。」

「で、でも、ヨシノブさんが悪い訳ではなく・・・」

「いいえ、悪いんです!女の子との距離も考えず、次から次へと!少しはキツく言わないと被害がおさまりません!」

ファイは拳を握りしめ、強く言う。


「私は何もされてませんよ?」

「奴は大事な物を奪ったのです。」

「大事なもの?」

「貴女の心です!」

ファイは決め顔でそうクラルに伝え、ヨシノブの所に向かうのだった。


「うにゅ、ファイはあの台詞が言いたかっただけなのよ。」

シモはケーキにフォークを刺しながら、ワタワタしているクラルの様子を伺っていたのだった。

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