第530話 留学生の滞在中
研究者達はヨシノブが用意したサンプルを整理していた。
モトキは鉱物の専門家であり、ミスリル、アダマンタイトの成分分析を始め、見慣れぬ石も研究していた。
「組織が地球と違う、どの石も違う成分がある・・・くっ、こんなの時間が足りる訳がない。」
モトキは寝る間も惜しんで研究している。
今回の留学には持ち帰れる荷物に制限があり、ヨシノブが用意した40リットルの容量のリュックサックに入る分しか持ち帰りを認めておらず、自分の荷物に紛れ込まして持って帰るなら全て没収すると伝えていた。
その為に持ち帰るサンプルは厳選する必要があるのだが、もとより嵩張る鉱物は持ち帰る分を準備するのにも難航していた。
薬学を研究する、コウもモトキと同じように頭を悩ませる。
様々な草花を用意されたのだが、未知の物質が見つかり、その都度研究が止まる。
これがどのような効果があるのか全くわからない、研究するにも時間が足りないのである。
全部持って帰りたいのだが、リュックに入る量では足りない、コウはポーションに使われる薬草を中心に持って帰る事にするのだが、薬草である以上、鮮度も大事であり、留学が終わる直前に大量に準備に追われる事になるのがわかっていた。
そしてゲンザイは・・・
彼はエンジニアであり、こちらの世界にある道具について研究している。
この世界には魔道具と呼ばれる魔物から取れる魔石を燃料として様々な効果のある道具がある。
それの構造を理解して、研究したいのだが・・・
「こんなのリュックにはいるか!」
魔道具自体大きい物が多く、小型の魔道具を数点入れただけでリュックが一杯になるのである。
そして、ヨシノブ自身、魔道具に興味を示していないので、集まる量も少なく、集めて欲しくとも、高額で希少な魔道具をすぐに用意は出来ないとの事だった。
3人の研究者が留学の多くの時間を屋敷で過ごす中、一人自由にうろついている人がいる。
「あっ、ヨシノブさん、お散歩ですか?」
「ああ、フユさんも散歩ですか?」
「はい♪こんな貴族の屋敷で暮らすなんて初めてですので、なんと言うのですかね・・・そう、セレブな感じを楽しんでいるんです。」
「そうですか、俺も日本にいる時はマンション暮らしでしたからね、広い家に住むだけでも嬉しいものがありますね。」
「ヨシノブさんもマンション暮らしだったんですね。
どのあたりに住まれていたのですか?」
「埼玉の浦和美園辺りですね。」
「埼玉だったんですね、私は八王子の辺りです。」
「おお、東京暮らし!!」
「止めてください、東京と言っても端っこですので。」
散歩をしながら日本について話し合っていた。
「ヨシノブさんは帰りたくないのですか?」
ふとフユがそんな質問をしてくる。
「うーん、日本での生活に未練はないかな?こっちに来てからカワイイ奥さんも貰えたし、沢山の子供達も出来た。
それにこんな立派な家に住めるようになったしね。」
「リョウさん以外の友人とか、会社の同僚とかに会いたいとかはないのですか?」
「友人と会いたいならリョウに連れて来てもらえばいいし、会社の同僚は・・・あまり会いたいとは思えないかな?」
俺は会社生活を思い起こすが、ゴマをするため太鼓持ちをしている奴や、出世の為に他人を貶める奴、下らない嫌がらせをしてくる先輩の顔が思い出される。
「ヨシノブさんがおられた会社、初の異世界社員を出したとか言って、便乗商売をなされていましたが、ご連絡などはしてないのですか?」
「はぁ?何も連絡してませんよ、そもそも俺はこの世界に携帯持ってきてないので電話番号覚えてませんし。」
「つまり、商品を送った事も無いと。」
「ありませんね。」
「わかりました、政府の方から指導しておきます。」
フユはメモをとり、抗議を旨を伝える事を約束する。
「他に日本でしたいこととか無いのですか?」
「日本でか・・・そういえばシモがみんなで遊園地に行きたいって言ってたな。」
「・・・それは貸し切りにしないと危険ですね。」
フユは俺の言葉に一度外にいる鬼を見て冷や汗を流すのだった。
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