第420話 配布と賄賂

「カルラ大丈夫か?」

「はい、おとうさん、大丈夫です。それより良かったのでしょうか?」

カルラは鬼に恐怖する住人を見ながら言う。

「俺はみんなにケガをさせてまで人助けする気はないよ。

恐怖するだけで必要な物が手に入るんだから、良しとしてもらうしかないな。」


それからは住人は怯えつつも食料を受け取り混乱はなく配布を続けていた。


「ここの責任者はどこだい!」

入口から軍服を着た女性の声が聞こえる。

「俺がここの責任者だがあなたは?」

「私はズムの治安維持を管轄するガラハだよ。

ここに住人を脅し、食料を不当に専有していると通報があった、素直に取調べに応じてくれるかい?」



「確かに住人に恐怖を与えているかも知れないが脅したりはしていない。

ここにある食料は住人に配るためとはいえ俺が持ってきた物だ、不当になど専有していない。」

「ガラハ様、その男ですよ、何もしていない私を殴り飛ばした奴は。」

ガラハの後ろにはカルラを殴った男がニタニタ笑いながらこちらを見ていた。


「訴えもあることだ、取調べを受けてもらうよ。」

「断る。今はそんな事をしている場合ではないし、ここでの活動はビザ家のシリアさんの許可を得ている。

捕まえたいなら先にそちらに当たってくれ。」


「お嬢様じゃわからない事もあるんだよ。

・・・それにだ、私も鬼じゃない。

取調べをかわしたかったら、やることがあるだろ?」

「やること?なんだ?」

「鈍い男をだね、出すもん出せば許してやるってことだよ。」

「こんな時にあんたは!

街の状況がわからないのか!」

「わかってるさぁ、だからこそ必要な物があるんだよ。

さあどうするんだい!」

俺とガラハが話している間、住人への配布が滞っていた。

軍服を着るガラハを斬れば住人の混乱をまねきかねない、かと言ってノコノコついて行ったら何をされるかわからない。


「御父君、始末いたしますか?」

酒呑童子はいつでもやれる態勢を取っていた。

よく見ると鬼達は出口も塞いでおり、押しかけてきたガラハ達を逃さない構えだった。

「待て、ここでこいつらを始末すれば今後の避難に影響が出るだろう。

はぁ、何でこんな奴が治安維持を管轄しているんだ?」

「なんだい、私を疑っているのかい?」

「そうだな、ここまでハッキリ賄賂を要求するやつが治安維持をしているとは思えなくてな。」

「私だからこそ出来ると管理方法があるんだよ。

これでも優秀で通っているんでね。」

「世も末だな。」

「うるさいねぇ、それでどうするんだい?

私についてきて拷問をうけるか、大人しく出すもん出すか、はっきりしな。」

俺はもう一つの選択肢、ガラハの始末が頭によぎるが・・・


「はぁ、仕方ない、受け取りな。」

俺は金貨の入った袋を無造作に投げ渡す。

「おや、結構あっさり出すねぇ。」

「時間が惜しいからな。さあ渡したんだからさっさと帰れ。」

「物わかりのいいやつは好きだよ。

みんな行くよ。」

ガラハは金貨の入った袋をしまい帰っていく。


「御父君よろしかったのですか?」

「今は時間が惜しい、叩きのめすのは簡単だけど今後の避難の時に邪魔されそうだからな・・・」

「心中お察しいたします。」

「さあ、みんな配布を続けてくれ。」

俺は悔しさを胸にしまい住人達への配布を再開するのだった。

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