第167話 ラード

「なに?ラードが落ちただと!貴族連合はどうしたのだ!」

報告に国王カームは驚きを隠せない。

「はっ!多くの貴族が討ち取られ、兵の多くも敗走しております。」


「何故だ!ラードには5万はいたのではないのか、何故そんなに簡単に落ちるのだ!」

「じ、じつは・・・」

報告に来た兵士は言いにくそうに話す。


貴族達は裏約束を信じ、経費削減の為に兵士を少なくしていた。

その上、国からの援助金を多く貰うために数を水増ししていた報告していた。

その為ラードには2万の兵士しかいなかった。

その上、油断しすぎ、ろくな防衛をすること無く陥落したと伝える。


「なんと・・・愚かな、あれ程自信を持って出兵したのにこの始末か!

して、ヨシノブの町はどうなっておる?」

「防衛に成功した模様にございます。」

「なに?攻められておらぬのか?」

カームはヨシノブが守りきれると思っておらず、放置された可能性を考える。


「いえ、撃破した模様にございます、その際の敗残兵がラードに来て、ラードを陥落させたようにございます。」


「・・・貴族達は敗残兵に負けたのか?」

「・・・はい。」

開いた口が塞がらないとはこの事だろう、

カームは一瞬頭が真っ白になる。

だか、直ぐに気を取り直して考えを巡らせ。

「・・・よし、騎士団総長ゲラを呼べ、ラードを取り返すぞ。」

「はっ!」

カームは出兵を決意していた。


「ゲラよ、ラードを取り返すぞ、軍を組織せよ。」

「恐れながら、直ぐには無理にございます。」

「何を言う!一刻も早く奪われた町を取り戻さねばならん。」


「ラードを落とすとなると多数の兵と攻城兵器が必要になります。

現在の騎士団の多くは他の国境におり、今から新たに徴兵、訓練を施し、攻城兵器を作るのにせめて3ヶ月は頂きたい。」


「時間がかかりすぎる、もっと早くならんのか?」

「陛下、外交で取り返す事は出来ませぬか?」

「・・・わかった、交渉はしてみよう。」

カームはラードを取り返すのにどれだけの金額を用意すればよいか考える。

そして、それは自分達で城を取り返す事が出来ないと世間に知らしめ、国威を落とすと事となる。

苦肉の策であった。


一方、ラードを奪った者達は略奪に次ぐ略奪を行っていた。

ラードを奪ったのまでは良かったが、総大将ナタルとその配下の将は全て死んでおり、今いるのは指揮能力の無い者達であった。

その為、兵士は暴れまわり、住居を襲い、金品を奪い、女性に乱暴をはたらいていた。


ラードの状況が俺達の元にも届く。

「ラードが落ちた?」

「そうなのよ、簡単に占領されたのよ。」

俺はシモから報告を聞いた時、耳を疑った。

ラードには防衛の為に軍勢が集まっていた筈なのに、何故敗残兵に落とされるのかがわからなかった。


「子供会は狙っていたのか?」

俺は子供会のトップであるヘルマンに聞いて見るが、首を振る。

「いえ、薄汚い者同士、ぶつからせてやろうと思いましたが・・・

まさかマルドラド王国が負けるとは思いもよらず・・・」

どうやら想定外だったようだ。


「しかし、困ったな、住人達に罪は無いだろ?」

「申し訳ありません。」

「いや、ヘルマンが謝る事じゃ無い。

でも、まあ何とかしてみようか。」

攻め落とすのは簡単だったが、攻略方法が更地にするのと同義だった。

もちろん此方に被害を出す気なんてない。


俺はなるべく住人に被害が出ないようにする為、ルーカスに相談する。


「ルーカスさん、住人を救出する事は出来ないかな?」

「うーん、難しいような・・・

そうだ、買い集めるのはどうだ?」

「買い集める?」

「予算はかかるが、一度奴隷として買い取れば・・・」

俺はルーカスの話を聞き、基地に避難してきていた、ルーカス商会のマスに依頼を出すのだった。



ヨシノブの依頼を受けたルーカス商会のマスはラードの住人を奴隷として買い集めていた。

「傷物で無ければもっと高く買ったのですがね。」

「くそっ、わかった、次は気をつける!」

なるべく、傷をつけないように兵士に訴えつつ、買い取った者を船を使い、ヨシノブの基地に送り込む。

そして、兵士達にヨシノブから渡された酒や食べ物を売る。

略奪や奴隷を売って金を手に入れた兵士の支払いは悪くなかった。

たまに脅して来るものもいたが、買って貰わないと商売にならない、明日からいなくなってもいいのか!と言い返すと他の兵士達が取り押さえていた。


こうして、マルドラド王国がローラン王国と交渉を始める前に生き残った住人全てを買い集めたのである。


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