第166話 追撃

「敵の攻勢も終わったようですね。」

ルクスが戦況を見ながら話かけてくる。

「ああ、シモ怪我人はどうなってる?」

「大丈夫なのよ、みんなあの変な攻撃から無事逃げたのよ。」

シモはヘルマンに通信で確認していた。


「それは良かった。

それで、他の状況は?」


「現在追撃しているのよ、ルーデルは残業なのよ。」

「追撃?」

「悪党を簡単におうちに帰すほど子供会に優しさは無いのよ。

マルドラド王国にちゃんと追いたてているのよ。」

「ルーデルに程々にするように連絡しておいてもらえる?

無茶をさせたらいけない。」


「大丈夫なのよ、ちゃんとミルクを飲んで行ったのよ。」

「いやいや、わからないから!なんでミルクを飲んだら大丈夫なんだ?」

「ルーデルはミルクが燃料なのよ?」

シモは首を傾げる。

「シモ何を当然のように言ってるんだ?」


「おとうさんにはわからないのよ、ルーデルはミルクと爆撃が趣味なのよ。

邪魔したら怒られるのよ。」

どうやら子供の教育を見直す必要を感じていた。


「それで、ルーデル以外で追撃に出ているのは?」

「エーリヒが射撃訓練に出てるのと戦車隊が別の所に行かさないように追いたてているのよ。」

「そうか、ケガをしないように深追いは止めるように伝えてくれ。」

「了解なのよ。」


ルーデルやエーリヒ、戦車隊に追い立てられたローラン王国軍はラードに向かわされていた。

「は、早く逃げろ!後ろがつかえているんだ!」

ラードとヨシノブの基地の中間辺りに石橋がある。

ここを境に領地が分かれているのだが、子供達はこの橋をローラン王国軍が渡りきった所で橋を砲撃により爆発する。


戦車の追撃はここまでとなり、川向こうからの砲撃だけとなっていた。

しかし、ルーデルの爆撃は止まない、ラードに向かうように徹底的に追い立てる。

「ホラホラ、さっさと行け。」


ルーデルに追い立てられたローラン王国軍はラードを目指す。


ラードに危機感は無かった。

裏約束の事はラードに来ている貴族は知っている上に、来るのはヨシノブが敗北してからと思い込んでいた。


遠くで見える爆発と聞こえて来る爆音を見に城壁に住人が登って見ているぐらいだった。

「なんだあれは?」

「こっちに来てないか?」

爆発に追われ逃げて来た者を住人達は町の中に入れる。

「あんた達大丈夫か?」

「ああ・・・ここは?」

「ラードの町だ、見たところ兵士のようだが何処の町の人だ?」


「・・・」

話していた兵士は考える。

このまま、ローラン王国と伝えると俺達は捕虜とされ、奴隷落ちもあり得る・・・

「・・・攻め落とせ」

「なんって言ったんだ?」

声をかけていた住人は聞き取れなかった。

「みんな!この町を攻め落とせ!さもないと俺達は奴隷にされるぞ!」

その声を聞いた者は直ぐに思い出す。

自分達は侵略軍で捕まると不味い事に・・・


町の中で剣を持って暴れだしたローラン王国の兵士達、その数約1万。

敗残兵とはいえその数は多かった。

町に迎え入れていた為、防衛は機能しない。

瞬く間に侵攻されていく。


そして、油断しきっていたマルドラド王国貴族達はこの状況で宴をしていた、

これから手に入る名声に思いを馳せ、浮かれていた。


しかし、宴の場に兵士が乱入してくる。

「なんだ、貴様らは!ここは一兵士が来るところではない、下がらぬか!」

マクドーナル伯爵は自身の兵と勘違いして叱責するが・・・

乱入してきた兵士は無慈悲に剣を刺す。

「なっ・・・」

マクドーナル伯爵は命を散らす事となる。


呑気に宴をしていた貴族達もマクドーナル伯爵が倒れたことに騒然となる。

逃げ惑うもの、命乞いをするもの・・・

中には裏約束を立てにしようとするものもいた。

「は、話が違うではないか!私に功績を立てさせる約束はどうなる!」

「知るか、なんだそれは!」

貴族達の裏約束など兵士が知ることではなかった、多くのマルドラド貴族が兵士に討ち取られ、わずかな者だけが命からがら逃げ延びた・・・


こうして、ローラン王国は思いもよらず当初の目的ラードを手にするのであった。



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