第67話 ヨシノブ襲われる

タケフミが見つかった翌日、俺は引き続き救助活動をしていた。

街中で人海戦術でガレキの下の人達を発見していく。

多くは亡くなっていたが、それでも助かる命も多少あったのだ。


そんな中、救助の途中で昼食をとっていた。

昼食をとりながらも、今後の予定を兵士と話し合っていたが・・・

後ろから誰かがぶつかってきた。


振り返ると身形の汚れた男だった。

「食い物をよこせ!」

男は俺が食べていたパンを奪う。

右手には血塗られたナイフを持っていた。


腰の辺りがジワリと濡れてくる。

それと同時に痛みも感じる。

どうやら腰の辺りを刺されたようだ、血が流れ出しているのがわかる。


「貴様!ヨシノブ様に何をする!」

周囲の兵士が慌てて、男を取り押さえる。

既に兵士は剣で止めをさそうとしていた。


別の兵士が俺に駆け寄る、

「ヨシノブ様!大丈夫ですか!」

「ああ、大丈夫・・・

その人を殺してはいけないよ、その人はただ食べ物が欲しかっただけ・・・」

「いけません!喋らないでください。すぐに手当てをしますから!誰かポーションを早く!早く持ってこい!」

その声を聞きながら俺は意識を失った。



意識を失ったヨシノブは港に運び込まれる。

「ヨシノブさん?ヨシノブさん!大丈夫ですか!」

最初に気付いたのはサリナだった。

担架で運ばれてきたヨシノブに慌てて駆け寄る。


「サリナ様、申し訳ありません、ヨシノブ様に暴漢が近寄るのを許してしまいました。」

護衛の人達の表情は暗かった。

本来守らなければならなかったのに、救助に気を取られ、ヨシノブの周囲に人を配置していなかった。


何処か助けているのに襲われると思っていなかった所があった。


「そんな事より、ヨシノブさんはどうなのですか?」

「ポーションで怪我はふさぎました、ただ、怪我の後遺症から今晩から明日にかけて熱が出るのではないかと。」

「わかりました。ヨシノブさんを船に運び込みます。一緒に来てください。」

サリナは自身の持ち場を離れ、ヨシノブにつく、この事により炊き出しが一気に滞る事となる。


船の倉庫から物資を持ち出せるのはヨシノブとサリナとショウだけであった。

現在置いてある食糧がその日の食事になる。


マイとカエデは慌ててショウの元に向かい、倉庫から出してもらう事にしたが、足の不自由なショウだと、あまり多く物を出せなかった。


食糧が一気に少なくなった住人は兵士に事情を聞くが、王都の住人に責任者(ヨシノブ)が襲われ、身動きがとれなくなっていることを伝える。


そして、兵士達も警戒体制をとっており、雰囲気は物々しくなっている。

順番に艦内の食堂に行けば食事をすることは可能なのだが、この状況で住人を艦内に入れる事を兵士は良しとしなかった。


住人達は襲った人間を恨む、幸い襲った者は檻に入れられ、直接危害が加えられる事はないが・・・

「あいつ、雑貨屋のマルコスじゃねえか?」

「そうだな、あいつのせいか?」

「ヨシノブさんに手を出すなんてふてぇ野郎だ。」

兵士もヨシノブの命令で命こそ取らなかったが配慮する気持ちはなかった。


「なぁ、出してくれよ!子供と嫁が腹をすかせているんだ!

誰か!」

マルコスは叫び、顔見知りに声をかけたりする。

「黙れ!お前のせいでみんなが迷惑しているんだ!」

「俺達を救うために頑張ってくださっている方になんて事をしたんだ!この恥さらしが!」

「誰か、こいつの家族を捕まえてこい!

一緒に引き渡して許して貰おう!」

マルコスに憎しみが集中する事になり、王都の住人はその家族にも憎しみが向く・・・


「や、やめろ!家族は関係ないだろ!なぁ頼む!

ガルカ、アルデア、ヘロン!お前達、友達だろ?

助けてくれよ!」

マルコスは認識出来た友人達に声をかけるが


「うるさい!お前なんか知らねぇよ!」

「そうだ、強盗に知り合いなんかいねぇ!」

「迷惑だ!声をかけるな!」

三人共に否定される。


怒りに任せた住人達に翌朝までには隠れていたマルコスの家族、妻のジェナ、息子のスィン、娘のフィリアが捕まえてられて、マルコスの前に連れてこられるのだった。

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