第49話 タケフミの出立
「すいません!お兄ちゃんが失礼してしまいました。」
タケフミが出ていったあとマイが必死に頭を下げてくる。
「いや、いいよ。
友達の行方がわかったんだ、会いたい気持ちはわかるよ。」
「でも、それでヨシノブさんに失礼していい事にはなりません。
妹として謝らせてください。」
マイはまた頭を深く下げる。
兄より立派な妹であった。
俺はルクスにツバサとユカリに会うことが出来るかと聞いた所、外交使節団を派遣するそうで一緒に行くことは出来るとの事だった。
ただし、会えるかどうかはわからない上、
それなりに帰って来れない危険があると言われ、俺自身が行くのだけは止めてくれと言われた。
この事を伝える、みんなに伝える。
「役に立たないと思っていたけど、やれば出来るな。
2人に会えるのなら行く決まっているだろ。」
タケフミは元気よく答えるが、先日と同じように誰も賛同しようとしない。
話は平行線だった。
「マイも行かないのか?」
「ごめんなさい、でも、私も外が怖いの。みんなもそう思っているの。
お兄ちゃんも行くのは止めようよ。」
泣きそうな顔をするマイにタケフミも強く言えない。
「わかったよ、じゃあ、ツバサとユカリを連れて帰って来るからな!」
タケフミはマイが止める中、
ローラン行きの使節団に混ざってツバサ達に会いに向かうことを決めた。
出立の日、
俺は使節団にタケフミの事をお願いしていたのだが・・・
「お前に言われなくても、俺は大丈夫だ!」
横からタケフミが邪魔をしてくる。
「タケフミくん、くれぐれも使節団の言うことを聞くようにね。」
「うるさい!わかっているって言ってるだろ!」
タケフミはムキになって怒ってくる。
「お兄ちゃん、ダメだよ。ヨシノブさんが折角お願いしてくれているのだから、そんな態度はダメだよ!」
マイはタケフミの腕を引っ張り、引き離す。
「ヨシノブ殿、いいのですか?」
使節団の人達はヨシノブに好意的であった。
その為、預かる筈の少年の言動に眉をひそめる。
「ええ、やんちゃな子供の言うことですからね。
面倒をかけると思いますが宜しくお願いしました。」
使節団は俺の頼みを引き受けてくれてなるべく安全に注意するように約束してくれた。
タケフミを見送り、子供達がいなくなった後、サリナが声をかけてくる。
「ヨシノブさん、あれ程言われて怒らないのですか?」
どうも、サリナはタケフミにいい感情を持っていないようだった。
「そりゃいい気はしないけど、反抗期の子供だろ?聞き流しもするさ。」
「優しいですね、」
「そうでもないさ、正直、ムカつきもしたさ。」
その言葉をたまたま通りかかったカエデは聞いてしまった。
カエデは慌ててみんなと合流する。
「マイ、ミキ!不味いよ!」
「どうしたのカエデ?」
ミキは慌てるカエデに質問する。
カエデは聞いたことを2人に伝えた。
「やっぱり、タケフミさんの行動、ヨシノブさんの機嫌を損ねていたようなの。」
「やっ、やっぱり、私が謝ったぐらいじゃ何もならないよね・・・」
マイの顔が青くなり、ガタガタ震えている。
兄の為にみんなが見捨てられたらと不安になる。
「だ、大丈夫よ、ヨシノブさんは優しいから、少し機嫌が悪くなっても見捨てたりしないと思うよ。」
ミキはマイの手を握り励ます。
「う、うん・・・」
しかし、マイの表情は暗いままだった。
その日の夜、マイはヨシノブの元を訪れる。
「マイちゃんどうしたの?」
俺は急に来たマイに何かあったか聞いてみた。
マイは自身の服を脱ぎ始め・・・
「あ、あの、私を抱いてください・・・」
「はぁ?マイちゃん何を言っているの?」
「だ、だって、私が出来る事なんてこんな事しかなくて・・・」
顔に涙を浮かべ、身体を震わしながら、思い詰めた顔をしている。
「こんな事をする必要なんてないよ、俺は女の子を襲うような男になるつもりは無いしね。」
「だって!お兄ちゃんはヨシノブさんに失礼な事をするし、
それでみんなが追い出されたらわたし、わたし・・・」
マイは泣き出してしまう。
責任感の強い子なんだろう、確かにタケフミの行動を考えると妹のマイとしては気が気で無かったのだろう。
「マイちゃん、君はもっと自分を大事にしなさい。
女の子の大切なものは好きな人が出来た時までとっておきなさい。
俺の事は大丈夫だからね、同郷の者を簡単には見捨てたりはしないと約束するよ。」
俺はマイを諭し、上着をかけて、肌を隠した。
マイは思い詰めてた心が切れたのか、俺に抱きついてきて、泣き続けるのであった。
俺はただ、泣き止むまでマイの頭を撫で続けていた・・・
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