第38話 酒飲みのおっさん
いずもを停泊させてから暫くがたつ、
俺は定期的に王の診察を行う傍ら、町の人の病気もみていた。
やはりというか、この世界は病気に対して無防備の為に、多くの人が様々な病気にかかっていた。
俺は診察して、薬を渡す毎日を過ごしていると小さいおっさんが訪ねてきた。
「えー、何処か悪いところは?」
「大丈夫だ、ワシは健康だ。」
「えっ?じゃあ、何故此処に?」
「此処に酒があると聞いたからじゃ、少し分けてくれぬか?」
「酒ですか?あることはありますが販売はしてませんので。」
「なんと!そんな酷い事は言わんでくれ・・・あの味を知ってしまえばもうエールに戻れぬのだ・・・」
おっさんは泣きながら俺にすがりつく、
「えーと、何を飲んだのですか?」
「ういすきーと言う奴じゃ!この船の船員が港で飲んでいたのを一口貰ったのだ!」
非番になった者達がどうやら外で飲んでいたのを貰ったようだった。
しかし、すがりつくおっさんには困ってしまう。
「わかりました、一瓶差し上げます。」
「おお!話がわかる!」
俺は倉庫からウイスキーを持ってきた。
「これをどうぞ。」
「かたじけない!!」
おっさんは浮かれたように帰っていった。
そして、その日は引き続き、診察をするのだが、
翌日、おっさんが三人に増えていた。
「なぁ、頼む俺達にもウイスキーをくれないか!」
「酒を販売する気はありません。元々この船に乗る人用です。」
「ならば、ワシらを雇ってくれないか!それなりに名の知れた鍛冶師だ、戦闘もいけるぞ!」
「鍛冶師の方ですか?うーん、それなら此処の兵士の剣を打って貰えますか?彼等が今持っている剣より良いものを作ってくれたらウイスキーと交換するのでどうでしょう?」
俺は妥協案を示してみる、あきらめてくれても良かったのだが・・・
「いいのか!そんな事で!」
「ええ、でも、剣を作るのは大変ですよね?」
「何を言う、ワシらに取っては息を吸うような物だ、それで兵士は何人おる?」
「五百人ですね。」
「・・・ならば、ウイスキーが五百本か。」
おっさんは舌なめずりする。
「待て、ワシらも打つに決まっておろう!独り占めはさせんぞ!」
「ならば、此処の兵士達が選んだ分だけが取り分だ!」
「独り占めも有りだな、ワシの剣に勝てると思うなよ!」
三人のおっさんはあっさり引き受けるだけでなく、各自独り占めをすると言い切り、互いに言い合いしながら帰っていく。
「なんだったんだ、あれは?」
俺は呆気に取られていた。
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