愛はiより出でて君より
ジェネリック半チャーハン
斬り愛
隣のクラスにめちゃくちゃイケメンで超文武両道の奴がいる、という漏れ聞こえる話に「どうせ盛ってるだろ」と思っていたのは間違いだったのだと、私はその時知った。
文化祭の係だったかで一緒になったアイツは、噂通りの優秀な野郎で、ついでに性格もめちゃくちゃに良かった。
桐島と一緒に過ごす時間は楽しかった。気付いたら好きになっていた。ので夏祭りに誘い、その場で告ってみたら
「ごめんね。碧くんのことが嫌いな訳ではないんだけど、そういう風には接せない。虫の良い話だけど、これからも仲良くしてくれると嬉しいな」
とこっぴどく振られた。当然しばらく荒れたが、今となってはほろ苦い思い出くらいの地位を確保している。
が、しかし。今、私はそんな過去のせいで。
「センパイ、どこですか~~!! なぁに隠れても無駄です……私の“斬り愛”の餌食となるんですからねェ~~~ッ!!」
──すっかりケヒャリストと化してしまった私の後輩を、何とかしないといけないらしい。
「……何でこんなことなってんだろうな、委員長」
「こっちの台詞です……」
◆◆◆
その日、顧問の腹いせで実行された過剰トレーニングにキレながらベッドに潜り込んだ私を夢で出迎えたのは、
「檜矢倉くん。君は桐島彼方の持つ精神の異常性に気付いているかい?」
「肉体に続いて精神もぶっ壊れたか……」
異常な質問をしてくる見覚えのない中年男性だった。
思わず出た声がやけに鮮明なことに違和感を覚え、周囲を見回す。高そうな調度品で統一された、小綺麗な部屋だった。自分は眠りについたときのジャージ姿でソファに座っており、謎のジジイが腕を置いている高そうな机には「桐島修二郎」というネームプレートが、
「……桐島?」
「気付いたかな。私の名前は桐島修二郎、君が恋をしている桐島彼方の父親だ」
「ッブァ!?!?」
思わず奇声を上げて立ち上がる。
「な、な、なんで、いや別にそんなことあるわけ」
「告白までしといてそんな言い訳は無理筋じゃないかなあ」
「なんでンなこと知ってんだよテメェ!?!?」
「彼方の周囲であった事は全部警備部門が管理してるんだよ。何せ、彼方は桐島グループの御曹司だから」
桐島彼方。私と同じ桐島学院高等部2年B組に所属する、超巨大企業、桐島グループの御曹司だ。
成績超優秀、スポーツ万能、顔も死ぬほど良くて金持ちの息子で、誰にでもめちゃくちゃ優しい。
「というか私振られてるんだが」
「でも彼方のこと今でも好きだろ?」
「んぐ……あ、あとな桐島の親父! いくらなんでも他人のプライバシーに首ツッコむのは流石に」
「ああ、その点は問題ない。ここは夢の中だからね、何を言おうが警察にはバレない」
「夢?!」
「桐島グループの科学力はスゴい、ということさ。……そろそろ話を戻そう。座りたまえ」
「えっ嘘、超技術をさらっと流しやがった……」
仕方なく座り直し、相手の話に乗る。
「……桐島の精神の異常、だったか? じゃあさっさと病院見せろよ、金持ちなんだろ」
「病気って訳じゃない、彼方はちょっと人が出来過ぎてるだけなのさ」
「……?」
「端的に言うと、彼は誰でも平等に愛する事が出来る。好意を寄せてくる女の子も、政争の相手となる男とも。人類愛的、とでも言うかね」
「……それって、良いことなんじゃねえのか?」
「よくないよ。逆に彼は、不平等に人を愛する事が出来ない。つまり──」
「──恋が出来ないんだ」
「は……?」
行き過ぎた聖人性が生み出した、あまりに歪な欠点。
そんなことが有り得るのだろうか、と思う。
同時に、彼なら有り得るという感覚も生じる。
混乱する私に構う時間が惜しいとでも言うように、目の前の男は──桐島修二郎は言葉を畳みかけた。
「しかしそれは、良くないことだと思う」
「いずれ社長となる彼がこんな体質では跡取りが出来ない、という懸念が1つ」
「愛する息子が恋を知らずに死んでいくのはあんまりだ、という感傷が1つ」
「だから、少々手荒な手段を取ることにした」
「参加者は、『桐島彼方を愛する者全て』」
「賭け金は、『桐島彼方からの愛情』」
「君たちは、桐島グループの与える“恋愛能”でもって戦い」
「敗者は彼方に愛されなくなり、その分の愛が勝者に注がれる」
「──題して、『超多角関係戦争』。一番ウチの彼方を愛しているのは誰なのか? 証明するために頑張ってくれたまえ」
◆◆◆
駅のホームで電車を待ちながら、ふぁ、と大きな欠伸を漏らす。
「徹夜でもしたんですか? センパイ」
「ん……や、何でもねえよ。ちょっと夢見が悪かっただけだ」
声を掛けてくる後輩を適当にいなし、原因である昨晩の夢の事を思う。
あの後戦争とやらの詳細なルールを聞かされたが、正直よく覚えていない。そもそもの前提部分を信じ切れてないのだから当然だが。
桐島が恋を出来ないという話は未だに飲み込みがたいが、夢のことは完璧に覚えていたしガッツリ覚醒していたらしいので疲れはあんまり取れていない。やっぱアレこの世にあっちゃいけない技術なんじゃ……
「──ねぇ、センパイ」
「ん?」
ふっと声を掛けられ、振り返って見た後輩は。
「もしかしてその夢、」
ハートマークの波を足下から生み出しながら。
「こういう物の話じゃないですか?」
ピンクの大鉈を振りかぶっていた。
【ルール1:『超多角関係戦争』参加者は、“恋愛能”という異能を行使できる】
【恋愛能を起動すると、戦闘空間『愛の庭』が展開され】
【一般人は排除、範囲内の参加者は問答無用で入場し、戦闘を行う事となる】
刹那。
自分の後輩に袈裟斬りにされ、私の体は吹き飛ばされた。
◆◆◆
「……死んだ!?!?」
「生きてますよ……あと大声はマズいです、位置がバレます」
「あ、おうスマン……」
とりあえず謝罪してから、周囲を見回す。どうやらここはロータリーで、バスの影に隠れているらしい。嘘だろさっきまでいたのホームだぞ、どんだけぶっ飛ばされたんだ……というところで、自分を拾った相手の顔を見る。
「……委員長?」
「はい。……碧さんも、参加してたんですね」
我らがクラスの愛すべき狂人優等生メガネ、
「えっと……委員長も、桐島に、こ、告白を?」
「告はっ……い、いえ、そのようなことは……」
「あ、マジか……そういうの無くても参加できるんだこれ」
「……あの、もしかして碧さんは」
「あっ」
失策を悟り、話を切り替える。
「そ、そういえば私どんな感じで来た?」
「え、あ、はい。ハートが足下を駆けてったと思ったら、ホームの柵越えて飛んできて。……あの、何があったんですか?」
「後輩にデッカい鉈で斬られた」
「それで無傷なんですか?!」
「あー、うん。たぶん私の恋愛能とやらのおかげ」
【ルール2:恋愛能は一人一人異なる名と性質を持つ】
異能のことを考えたからか、手元にハートのエフェクトを出しながら小さな盾が現れる。
「私のは『気愛』で、『致命傷を1回無傷にする』とかだったかな……? ちゃんと検証してないけど」
「ああ、“気合”……ってことはアレ当たったら一発でやられるんですか」
「やだなそれ……ちなみに委員長はどんなの?」
「え、えーっと私のは……」
と、その時。
「──センパ~イ? どこですか~~?」
後輩の声が、ロータリーの入口の方から聞こえる。降りてきた。ガリガリ言ってるのは鉈を引き摺る音だろうか。
(ど、どうするコレ……!?)
声と身を潜め、委員長に声を掛ける。
(委員長、とりあえず能力何!? 何とかするにも情報が少ない!)
(……えっと、その。実は)
観念したように、開いた口から出て来た言葉は。
(私の能力の使い方、分かんなくって……)
これ詰んだかもしれんな。
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