第6話 夕食はコロッケ
玄関のドアを叩く音がしたのは、俺たちがちょうど夕飯をとろうとしていた時。
沙夜が玄関に向かう。
「あの、夜分遅く申し訳ございません」
がらがらと引き戸が開けられる。
「こんばんは。珍しいわね。どうしたの?」
壁掛け時計を見ると午後の七時十五分。食卓には三人分の食事が用意されていた。
玄関から沙夜と他の女の声が交互に聞こえ、すぐに終わり、二種類の足音が近づいてくる。
「……夕食の最中だったんですね」
白い巫女装束を着た女が姿を現す。
黒髪かと思いきやよく見ると銀色の髪の毛がほんの少し混じっている。白髪でもなければ染めている訳でもなさそうで、透き通るような色白の肌や服装とも相まって神秘的に映った。
そしてなぜか女は、右手に長い太縄を持っていた。
「ううん。これから食べるところ。
「……遠慮いたします」
「遠慮しなくてもいいのよ、今日はコロッケだし」
「……コロッケ?」
「しかも、クリームコロッケだよ」
彩がにこやかに言う。
湯気の立ち上る、揚げたてのコロッケを見つめるヨミと呼ばれた女。
「……いただきます」
少しだけ嬉しそうに笑う。
感情をあまり表に出さない性格のようだが、微妙な表情の変化からそれを窺うことは十分にできた。
こう見えて、明るい子なのかもしれない。
「すぐに用意するから、みんな先に座ってて」
「久しぶりね。詠が家に来るなんて」
沙夜が俺の方をちらっと見る。
詠は軽く会釈をして、
「
「よう、また会ったな」
そう言うと、詠は一瞬なにかを考える表情を浮かべたが、
「……はい、そうですね」
と、微笑む。
俺を見て、心底安心しているような笑顔。対照的に沙夜は怪訝そうな顔をしている。面識があることを不思議がっている様子だった。
「できたよ~」
彩が俺の左隣に座る。
長方形のテーブルに、二人ずつが向かい合う。俺の正面には詠、その隣に沙夜。
「じゃあ、食べましょう」
彩の、いただきますっ、という元気な声で食事がはじまる。
「……詠さんはね、村の神社の巫女さんなんだよ」
彩が耳元でささやく。
長く艶やかな銀色混じりの黒髪が、食事をする詠の一挙一動でさらさらと揺れる。
沙夜と比べると、この詠って子は、良い家柄のお嬢様のように見える。気品があるとでも言うのだろうか……よくわからないが。
「なんだ?」
沙夜と詠が俺の方を見ている。
「この子、あなたに話があるんだって」
詠は、こくり、と頷く。
「俺も聞きたいことがある」
「……?」
「桜の下で会ったときのことが知りたい。俺が気を失った後のことだ」
「はい。私の話もそのことです」
彩は俺と詠の顔を交互に見て、
「やっぱり桜居さんを最初に見つけたのは、詠さんだったんだね」
俺は頷く。
皆の箸が止まり、詠に注目が集まる。
詠は目を閉じ、お茶を一口飲み、それから静かに話をはじめた。
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