親父

「ただいま。」

「おい、こんな遅くまでどこいってたんだよ。」


向き合おうとした日にこうやって絡まれるとは、運がいい。


「友達の家で遊んでた。」

「お前に友達?はっ、見栄張ってんじゃねぇよ。お前なんかに友達が出来るわけないだろ。」

「なぁ親父。話がある。」

「…んで、俺がお前の話を聞かなきゃなんねぇんだよ。」

「俺もバイトを始める。」

「あ?なんだよ。俺の稼ぎじゃ生きてけねぇって言うのか?」

「違う。親父にばっか働かせてるからだ。」

「てめぇ、女がしゃしゃり出んじゃねぇ。男が出稼ぐってのは当たり前なんだよ。」

「女でも働ける!俺だって働いてお金を回したいんだ!」

「どこにだよ。どこに回すんだよ!」

「うちにだ。もう見てらんないよ。俺が好きだった親父はどこに行ったの。仕事をしてる時のあの親父は…。」

「…な、なんだよ。」

「仕事熱心で、客のために一生懸命になれる俺の親父はどこに行ったんだよ!」

「…もう、もう俺には客を喜ばせることなんてできねぇ…。」

「過去のことばっかり引きずるなよ!今を見ろよ!親父は、誰かのためになってんのか?自分のためになってんのか?」

「……」

「仕事して、酒買って酔っ払って、遊びに行って、金がなくなったらまた仕事しての繰り返し、自分のためになってんのか?」

「ガキに何がわかる。」

「もう高校生だ。少しは大人になった。まだガキの俺でも、あんたが、親父が辛いってことぐらいはわかる。」

「…そうかよ。もういい、消えろ。」

「……わかったよ。」


これでいい。これでいいんだ。少しずつ話し合っていこう。親父に元に戻って欲しい。だから、もう少し頑張ろう。



俺には愛がいる。だから、親父には、俺がついててあげよう。そのために、あともう少し。


今の俺だから言えること。


「親父、生きてください。」


さぁ、これからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る