新たな旅へ
第18話 旅の計画
街に戻ると、街を出る時よりも痛いくらいビシビシ視線を感じる。自分たちと一緒に、男性か女性か分からない、それは端正な見た目のヴルムが居るからだろう。
透けるような肌、薄い水色の髪、ヒスイも思わず見とれてしまった美しい顔立ち。
男女問わずため息が聞こえてくる。
め・目立ちすぎる。
蒼河も柴もかなりレベルの高いイケメンだというのに、そこに新たな美形が加わっているのだから仕方がない。
場違い感が否めないヒスイは「私だって成長すればこの中に入っても浮かないのに」と、心の中で拗ねる。
ハイスペックに囲まれる気分は悪くはないが、周りからの視線が痛くて居心地が悪い。
ヴルム様にはやっぱり翡翠石に入ってもらっていたほうが良かった気がする~!
ヒスイが軽く後悔しながら蒼河の家の門をくぐると、そこには
「トークの森の主、ヴルム様とお見受けします。この度は息子どもが世話になりました」
「畏まらずともよい、頭を上げよ。こちらこそ随分ヒスイが世話になった。友人であるナーガラに変わって礼を言おう。」
蒼河の父親は緊張した顔を上げ、ヴルムを見てその若々しく美しい見た目に驚いている様子だ。
ヒスイはそんな二人のやりとりが何だか不思議な光景に見えた。ヴルムが自分の親の代わりに挨拶をしてくれるとは。自分の父親とそこまで仲が良かった人なんだと改めて実感し、少しこそばゆい。
蒼河の父親は年長者であるヴルムに一歩控えながらリビングに案内する。
集会所は襲撃の際に焦げてしまい修繕中のため、今日も昨日に引き続き家の一番広い場所で話をするようだ。
「狭いですが、こちらへどうぞ」
一番奥の良い席をヴルムに勧め、座らせる。その間に蒼河は大きな地図を引っ張り出してきて、机の上に広げた。
「父上、どうやら今度はケプーラ山脈への旅となりそうです」
ところどころ地図を指差しながら、滝で話し合った内容を蒼河が説明していく。反応から察するに、蒼河の父もまた、ケプーラ山脈の向こう側の話を初めて聞いたようだ。
「そのような場所に竜族の街があったとは……知らなかった。儂が生まれた頃にはすでに伝説の一族と言われていたからな」
竜族の話についてはかなり興味深い様子だが、根掘り葉掘り聞くのは失礼と思っているのか黙ったままだ。
ひと通り説明が終わり、今後の計画について話し合う。
「父上、今回も旅立ちに良き日を占いますか?」
「ううむ。そうしたいが事は急を要する。タイミングとしてはヒスイの身の安全を考えると少しでも早く旅立つ方が良いだろう」
蒼河親子は慎重に日程を決めたい様子だ。
「今回は結構な長旅になりそうだから、準備は万端にしたいところだよな!」
柴は少なくとも多少の準備期間の確保は必要だと思っているようだ。
「ヒスイには我がついているから明日にでも問題ない」
ヴルムは早く出立したい意向で、ヒスイとの二人旅で構わないという勢いだ。
「確かに水竜であらせられるヴルム様が一緒であれば何かあっても安全そうではありますな! ですが、まだお力が完全ではないのではありませんか?」
「確かに万全ではないな。しかし、いつまた街が襲われるかもわからない今、いつまでもここにヒスイを置いておくのが良いとは思えぬ。
今までは残り香のようなヒスイの気配を辿っていたのだろうが、本物の…ヒスイの存在を奴らは知ってしまった。今度はヒスイを直接狙ってくると考える」
その言葉に一同が考え込む。
できるだけ早く、に一票だ。だが。
「早く出立したほうが良いのは私も同意です。でも、不完全な私と万全でないヴルム様……二人で何とかなるとは思えないです」
ヒスイは思わず弱気な言葉を口にしてしまう。
せめてあの時、ヴルム曰く「ヒスイ自身がかけた呪い」をどうやって解いて成長できたのかが分かれば、明日にでもケプーラ山脈に行くと言いたい。ただ、有事に自分の力を解放できるかどうかわからない状態で、たった二人で旅をするのは少し無謀だと感じる。
ヒスイの言葉を受け、また沈黙が流れる。
「分かった、出来るだけ早急に出立できるよう準備しよう。ただし、誰かを護衛に付けることを約束してくださらんか」
蒼河の父親はヴルムとヒスイの気持ちを汲み、準備が出来次第出立という選択肢を選んだ。
誰を護衛に付けるとは言わなかったのは、蒼河と柴の二人がすでに二年の長旅の帰りであることを気にした。
多分、ついていけと言えば二人はふたつ返事でついていくだろう。息子の蒼河はともかく、柴は皇牙族の跡取りだ。しかも戦闘によって転変の力まで発動させている。力ある若者がこのまま街をまた離れることになるのは、柴自身にも一族にも申し訳ない。
五日以内に旅に出れるよう尽力するとヴルムと約束し、その場は解散となった。
ヒスイがやることは沢山ある。
一緒に行く護衛の選定。それなりの力がある者でないと務まらない。これは蒼河の父親に任せる。
食料や水など、旅の準備。
そして先ほど決まったルートを叩きこみ、ある程度のシミュレーションを行う。
出来るだけ迷惑がかからないよう、街道の街や村には立ち寄らないように休憩場所を調整しなくてはならない。
水場や洞窟など、出来るだけ休めそうな場所の目星をつけ地図に書き込んでいく。
いつまた敵が襲ってくるかもわからない。焦る気持ちを抑えながら、ヒスイは準備を着々と進める。ヴルムは力を少しでも回復させるため、毎日滝まで足を運ぶことにしたようだ。
護衛については蒼河も柴も自分が一緒に行くと譲らず、皇牙族も柴の良い修行になると首を縦に振ってくれたこともあり、早々にメンバーが決定した。
比較的スムーズな護衛選定と準備により、襲撃の日より数えて四日で旅に出られることとなった。
毎晩ヴルムから
「いよいよ明日出発か。
ヒスイはベッドに横になると胸の翡翠石を取り出し、じっと眺めてみる。
部屋の明かりに照らされ、キラキラと石が光っている。
何とかなると覚悟を決め、眠くはないがそっと目を閉じた。
朝になれば、再びこの街を出ることとなる。
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