第13話 ファーストバトル
あれは、ドラゴン!?
上空に浮かぶ謎の女と言い、何が起きているのかわからない。
先ほど女が放った翡翠色の光でほとんどのモンスターは掃討されている。まずはあのドラゴンを何とかしないと!と、柴に目配せして黒いドラゴンの元へと走る。
「なあ、あれはヒスイなのか?魔力が強すぎて鼻が利かない」
柴は蒼河に尋ねるが、蒼河にはわからない。
「翡翠色の髪にルビー色の瞳……ヒスイと同じだ。流石に本人かどうかわからないけど関係者ではあるだろうね」
そんなにポンポンと伝説の竜種が現れるなんて、何が起きているのか全く分からない。ただ、今起きている
空に浮かんでいた女が落ちた。
いや、落ちたと言うには速すぎる。黒いドラゴンに向かって突撃したのだと理解する。
「とにかく急ごう!」
二人は速度を上げてドラゴンの居る場所へと向かった。
その場で目にしたのは、ドラゴンを素手で殴っている女だった。細く華奢に見える身体なのに、ものすごい重さのパンチを放っている。
どうやら拳に魔力をのせているようだ。物理攻撃の合間に蒼河ですら見たことが無い魔法を放っているが、黒いドラゴンの方には余裕があるのかパンチを受けてもダメージを感じた様子がない。
「じわじわだけど押されてる! 加勢しよう!!」
そう言うと蒼河は
その場にいる味方の防御力と攻撃力が格段にはね上がり、目の前の敵を倒すぞ!という闘志まで燃え上がる。
柴はヒュウ!と軽く口笛を吹き、ドラゴンに向かって突撃していった。
蒼河は続いて
どれだけ効果があるか分からないけど、無いよりは。
恐らく闇属性だろうと踏んで光魔法を使ったが、実際の属性は分からない。動きが鈍ったドラゴンに向かって、女と柴が物理攻撃を中心に連続して攻撃を当てていく。
どうやら多少なりとも効果はあったようで、黒いドラゴンは苦しそうに咆哮をあげている。
よし、行ける!
蒼河も補助魔法と攻撃魔法を交互に展開して参戦する。お互いの体力の削り合いのような戦闘が続くが、なかなか黒いドラゴンは倒れてくれない。一瞬の遅れが命取りになる。
次々に魔法を展開していた蒼河は、そろそろ魔獣に貯めていた魔力も底を尽きそうになっていた。
魔力の消費が信じられないくらい早い。
いつまで持つか。
自分の体力の無さ、魔力不足を痛感しながら次の攻撃を思案する。その隙をついてドラゴンの尾が蒼河を襲う。
一瞬対応が遅れた。
ドラゴンの尾が身体に直撃し、蒼河は宙を舞う。ミシミシと骨が何本か折れる音がした。
「蒼河!!!」
柴は蒼河が宙を舞ったのを横目で追った。
魔法で肉体強化をしていなければ元来肉体が頑丈でない天空族の蒼河は即死だっただろう。
柴は、自分が蒼河を守れなかったことに腹が立っていた。
俺は何をしてるんだ!蒼河は魔法こそ凄いが肉弾戦には向いていないのは分かっていたはず。
なのに、ドラゴンに近づきすぎていると気付けなかった!
注意は払っていたつもりだったが、つもりで終わっていたと痛感する。どこかで蒼河は大丈夫だと思っていた自分に腹が立つ。そしてその怒りを目の前のドラゴンへそのまま向ける。
蒼河は無事だったが、次が大丈夫という保証はない。
「ここで本領発揮できなきゃ、俺は絶対後悔する!!!」
怒りの感情に任せてドラゴンへと突進する。
右側からドラゴンの尾が柴を襲う。それをジャンプで避けると目の前にはドラゴンの放った赤黒い色の火球が迫る。
女がそれを防ぐために何とか魔法を放とうと準備をしているが間に合わない。
「こんなもん、何でもねー!!!」
柴は火球を避けず、攻撃を受ける覚悟で突っ込んでいく。
柴と衝突した火球は炸裂し、爆発する。
「柴!!!」
態勢を立て直したばかりの蒼河が顔を上げると、柴が火球を食らっていた。大丈夫かと急いで回復魔法を展開しながら目を凝らす。
爆風の中からは真っ白な獣が飛び出してきた。柴が転変したのだ。
試練での話を聞いてはいたが、実際に見るとやはり驚く。美しい白い毛並みの巨大な狼のように見える。蒼河はその姿に一瞬目を奪われたが、柴が咆哮を上げるとはっと我に返る。女を見ると、同様に柴の姿に驚いたように攻撃の手が止まっていた。
転変した柴は今までの何倍ものパワーでドラゴンを追い詰めていく。
柴がドラゴンの喉笛に噛みつく。
女が魔術で作った剣でドラゴンの尾を切り落とす。
蒼河が二人のパワーを底上げする支援魔法をかける。
圧倒的にこちらが押している。勝利が見えたと思った。
「グオオオオ!!!!!」
あともう少しと思ったその時、ドラゴンの咆哮が響いた。咆哮は衝撃波となって三人を吹き飛ばした。
態勢を立て直して攻撃を……と思ったところでドラゴンが地に溶けた。
転移をしたようだ。
さっきまでの戦いが嘘のように静まり返り、残っていたモンスターたちも同時に消えてしまった。
「逃がした……?」
女が呆然としながら口の中でぼそっと呟く。
柴と蒼河は、正直ホッとしていた。これ以上続くと体力も魔力も尽きるところだった。
撃退することが出来て、街が守れたなら結果オーライだ。
姿を戻した柴が、一気に気が抜けたように倒れ込み叫んだ。
「あーーーーー!!! とりあえず何とかなって良かったー!!!!!」
それを聞いて蒼河が笑う。
「結構危なかったけど、撃退できて良かった。本当に」
そんな二人と対照的に、女は焦った顔をしている。
そういえばこの人物は誰なのか。とにかく彼女にもお礼を。
「一緒に戦ってくれてありがとう。身体はどこにもケガなどしていないですか?」
「ええ、私は大丈夫。でも蒼河、何でそんなに他人行儀なの?」
女の口から蒼河と名前が出たことで、柴と蒼河は同時に叫んだ。
「やっぱり、ヒスイ!!?」
「え、私のこと誰だと思ったの?」
どうやら、ヒスイは自分自身の身体の変化に気付いていないようだ。
ぽかんとした顔をして二人を交互に見ている。
蒼河も柴も戦いに集中していて今までしっかりと認識していなかったが、ヒスイは人間で言うと二十歳くらいの姿をしている。
戦闘で少し薄汚れてはいるものの、よく見ると相当な美女だ。
しかも身長も胸も腰も大きくなっているため、丈が短くなりあちこち裂けた服が…………何と言うか、非常にいやらしい。
こほん、と咳払いをし蒼河が自分の上着を脱いでヒスイの身体を隠すようにかけた。
ヒスイは蒼河との身長差で初めて自身の変化に気付いたのか、自分の手足をまじまじと眺めている。
「何? 私……成長しちゃってる?」
蒼河と柴はちょっと照れながらも激しく首を縦に振った。
ようやく自分の身体のサイズと恰好を認識したヒスイの顔は見る間に真っ赤に染まり、さっきまで勇敢に戦っていたとは思えない声が平和を取り戻した街中に響き渡った。
「嫌ああああ!!! 嘘でしょおおおおお!!!???」
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