第12話 解放
ヒスイは鬼の魔物から逃げていた。
とにかくあの魔物から逃げなくてはと、街の範囲だけがなぜか豪雨だったが構わずそこへ突撃した。
雨の中は、思ったほど激しく降ってはいなかった。敵には目くらましになっているようで前が見えないとばかりに右往左往している様子が見えるが、街の者には雨が支援になっているようだ。どこか優しい力を感じる。
これは蒼河の魔法かな。
何となくそう思う。街に入ったことと
その一瞬をついて鳥の魔物に捉えられてしまった。巨大な足がヒスイを掴みそのまま空高くへと舞い上がる。
逃げ場がない!
もがいてもしっかりとつかまれていて逃げられない。みるみる地上が離れていく。鳥の背からはあの男の下品な笑い声が聞こえてくるので思わず耳をふさぐ。
なぜかその声を聴くだけで気分が悪くなり身体が強張り鳥肌が立ち、頭痛がして吐きそうになる。ここまでの嫌悪感は今まで感じたことのないものだった。
ヒスイは激しくなる頭痛に思わず悲鳴を上げていた。
「痛い……嫌だ! 離して!!!」
「離したら落ちて終わりだぜ!? いいのか?」
男の下品な声が聞こえる。近いような遠いような、感覚がおかしい。
頭痛はひどくなる一方で、男の声が反響する。頭が痛い。どうしてこんな事に巻き込まれているのか。怒りと恐怖でわけがわからなくなる。
「そんなに騒がなくてもお前の仲間も皆殺しだ! たっぷり可愛がってからお望み通りあの世へ送ってやるぜ!」
その言葉を聞いた時、ヒスイの中で何かがはじけた。
皆殺し?そんなの許されるわけがない!
たった数日だったけれど、得体の知れない私を守ってくれたあの人たちを?
あの優しい人たちが何をしたと言うの!?
頭が割れそうなほど痛む。ズキズキと刺すような痛みが額を中心に全身へと巡る。
どうにかなりそうな痛みに耐えきれず、ヒスイは意識を失った。急に大人しくなったヒスイに気づき、鬼の男はどうした?と鳥の足を覗こうと体をかがめた。
刹那。
翡翠色の光が足下から押し寄せてくる。
同時に男も鳥の魔物も絶鳴を上げる暇もなく蒸発し、消えた。広がる光はヒスイを中心に円状に広がり、上空に集まっていた鳥も地上のモンスターも飲み込むと瞬時に蒸発させていく。
何が起こったの?
意識が戻ったヒスイは目の前の出来事をぼんやりと見ていた。
全身の痛みは消え、自分の身体の中からものすごい力があふれるのを感じる。翡翠色の光のおかげで、洞窟に居た時のように気持ちが落ち着いて周りの状況が手に取るように分かった。
自分の足下に何かとてつもない悪意を感じる。この悪意の塊は今のうちに消しておかないといけないような気がする。
少し先で蒼河と柴が戦っているのが見える。
あ、私に気が付いた。そんなに驚かなくてもいいのに。
目を丸くして自分を見つめている見知った顔をみつけて少し微笑む。
広がった光がヒスイの元に戻ってくると、意識がよりはっきりして周囲のイメージが鮮明に頭の中に入ってきた。
足下の倒さななければならない敵を見てヒスイは驚いた。
それは真っ黒な身体に赤い鬣のドラゴン。
役に立つのかと思えるほどの小さな翼とぬめぬめと光る鱗が全身を覆っている。血よりも深い赤い瞳が笑ったように細くなる。
この不快感は何だろう?
なぜかそのドラゴンを見ると、怒りと恐怖が入り混じった感情が湧き上がってくる。はじめて見た気がしない。それどころか「それを倒せ!」と全身の細胞が暴れ出そうとする。
ヒスイ自身が忘れていても身体に染みついた記憶がそうさせているようだ。
全身が戦えと言っているのが分かる。だめだ、
ヒスイは黒いドラゴンに向かって急降下した。
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