県庁攻略 1

♦︎


 その日の夜、寝た筈の俺は一人で真っ暗な空間に居た。この空間に来たのは青堀神社一件以来で、俺はどこか懐かしく感じてしまう。

またそれと同時にこの空間に来れたことで安堵していた。


「よおトリセツ、久しぶりだな」


 俺はすぐにこの空間に現れるであろう相手に向けて声を掛けた。

 だが——


「……トリセツ?どうしたんだ?」


 今までは冗談を言いつつすぐに現れていたトリセツ。だが声を掛けてから暫く経っても、その姿は一向に見えない。


(最後に会った時にはいつも通りに消えていったが……)


 あまりにもトリセツが姿を見せなかったことで、俺はトリセツがサポートで無くなり俺から離れた可能性も考えていた。だが、この空間に来れたと言うことはまだトリセツは俺のサポートとして存在している……筈。


(確かトリセツはサポートが介入し過ぎると不味いと言っていた。まさか青堀神社の件で諏佐さんに干渉したことがマスターとやらにバレたのか?)


「おいトリセツ!今すぐ——」


 そこで突然、俺の言葉を遮るかのように耳鳴りとノイズ音が頭に響き始める。その音はすぐには止まらず次第に頭は痛みを覚え始め、俺は頭を押さえて片膝をつく。


「ぐ……ッ!」


 そこで、あの声が聞こえた。

 

『……て……』

 

(くっ、この声はトリセツか!?何故、こんなに弱々しい!?)


『お…に………気…を…つけ…………』


「トリ……セ……」




 ——そこで、俺の夢の中の記憶は途切れた。




♦︎



 皆市に呼ばれてから二日後の朝。領域と化した県庁の入り口前には三十人を超える武装した人々が集まっていた。その様子は笑っている者、顔色が悪く座り込んでいる者、とそれぞれだ。


「おい!集まれ!」


 岩倉がそう大声を挙げると、座り込んでいた者も慌てて立ち上がり岩倉の前へと早足で駆け寄っていく、それを見た俺もそれに倣い集団の後ろにつけた。


「これから俺達は県庁へと乗り込む。作戦はいつも通り道中の敵は皆市さんに任せ、そこから漏れた奴だけを銃で狙うだけだ。くれぐれも皆市さんの邪魔だけはするなよ?特に……」


 そこで岩倉がこちらを向く。


「安心しろ。俺は自分に危険が及ばなければ手を出すつもりは無い」


 俺の答えに岩倉は鼻を鳴らすと話を再開する。


「ああ、是非そうしてくれ。皆市さんが居ればお前なんぞの力は必要ないからな。よし、じゃあいくぞ!」


 そう言って県庁入り口へと向かう岩倉の横に、皆市の姿を見つける。その横顔はやる気に満ち溢れたものではなく無表情だった。



 そして皆市の姿を眺めていた俺の背後から声が掛けられる。


「随分とあやつに敵視されておるのお、お主」


 声の主は爺さん。何故ここに居るのかと言えば、爺さんが同行する許可を皆市から許可を得たからだ。そしてこの爺さん、皆市とは真逆でやる気に満ち溢れている。


「まあ、あいつも俺が現れた事で、自分の立ち位置に危機感を覚えたんだろうさ。もし俺があいつよりも活躍したら立場が無いからな」


「たいした努力もせずに立場に縋り付く、か。あまり好ましくはないやつじゃのう」


「ははっ。まあ俺も同じ考えだが……」


 そこで爺さんは首を傾げ、俺を見つめる。


「……灰間の小僧、お主何かあったか?」


 その目は真剣だが、どこか優しさを感じる表情だった。


「ああ、いや別に……」


「何か思う所があるならば、儂で良ければ聞くぞ?」


「あー……まあ、急ぐ事じゃないしここの攻略が終わったら聞いてくれ」


 爺さんはふむ、と頷くと俺の肩をぽんと叩いてから踵を返す。


「まあ儂は見合い結婚なんじゃ。色恋沙汰の相談には力になれんぞ」


「いやいや……そんな話爺さんにする訳ないだろ……」


 去り際にそう言った爺さんに呆れたあと、俺は自分で両頬を叩いて気持ちを引き締める。


(今このタイミングでトリセツが何かを伝えに来たのなら、間違いなくこの県庁の中で何か有るんだろう。ボス対策はが、気は抜けないな……)


 俺は『兵器保管』から拳銃を取り出し、県庁の入り口へと向かった。





♦︎




 ——真っ白な空間に、グレーのパーカーのフードを被りタブレットの画面を眺める人物と、真っ黒なパーティードレスを着た赤髪で巻き髪の少女が居た。

 少女は明らかに不満そうな表情で、両腰に手を当てパーカーの人物に詰め寄っていた。


「なんであの子を特別扱いするんですの!?ルールを破ったサポートなんて、消してしまえばよろしいでしょうに!!」


「……」


 目の前に迫り叫ぶ少女に対して、パーカーの人物は何も答えない。


「〜〜!!またそうやって無言でやり過ごしますのね!幾らなんでもわたくし達ジェニスを蔑ろにしすぎですわ!」


「……」


「分かりました!もうわたくしの方で勝手にやらせて頂きますわ!ふん!」


 反応が帰ってこない事に腹を立てた少女は、白い空間から消えるように姿を消した。

 そして残されたのはパーカーの人物。タブレットを眺めながら一人呟く。


「後八ヶ月……」




 月が替わり八月。もうすぐ、世界が変化してから四ヶ月が過ぎようとしていた。




♦︎

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