提案と拒否
村田さん達との再会を喜び合った後、俺は安田さん夫妻を交え、現状について話し合いを行っていた。
「もう周辺では食料の確保は見込めない。贅沢をせず節約していたが、このスーパーの食料では保って一月といった所だろう」
俺は食料の置いてあった棚へと目を向ける。見える範囲では、既に空になった棚が目立ち、残る棚にある物も疎らだ。
先程見に来てください、なんて言ったが……この状況じゃ厳しい。それならいっそ——。
「それなら全員で中央区に来ませんか?碧のお陰で農地も安定して食料の自給にも目処が立ちました」
だが俺の提案に対して安田さんは浮かない表情だった。
「……とても嬉しい提案だとは思う。けれど、この領域の人達の為に怪我をして移動が困難な者達も居るんだ。私はその人達を見捨てる事は出来ないよ」
領域の中ならば基本的には安全。だが食料のオブジェクト化を解除するには魔石が必要で、どうしても外に出る必要がある。魔石銃を持ち安全に気を配っていたとしても、怪我人を0にする事は難しかったようだ。
そんな人達を見捨てるのは流石に心苦しいのだろう。俺としても保護しておいて見捨てた、という後ろめたさが有った。安田さんの気持ちも理解できる。
だが——。
「でも、それなら移動が困難な人達を含めて安全に移動出来れば問題無いんですよね?」
「ああ、それはそうだが——流石に難しいだろう。だからこそ……」
「なら、俺が移動をなんとかします。安田さん達は全員の意思確認をして下さい。もし全員が納得するのなら明日にでも移動を開始します」
安田さんは目を見開いて驚く。
「いや、まさか、出来ると言うのか。君はどれだけ私達の想像を……」
「安田さん。私達は灰間君の意見に賛成です。もし、安田さんの許可が出れば意思の確認に行ってきます」
そう言ったのは村田さんだった。村田さんは安田さんよりも歳上だが今の立場を考慮して敬語なのだろう。
「……分かりました。村田さん達にお願いします」
そうして、このスーパーからの移動計画が動き始めた。
♦︎
その翌日、スーパーの駐車場に領域全員が集まっていた。
結論から言うと、領域に居た人達は一人を除いて中央区への移動を了承した。地元に残りたい、という感情は有るようだが今の現実を見て移動を決断したのだろう。
そして首を縦に振らなかった一人とは、魔石の確保の際に足を怪我した中年の男性だった。
その男性が移動を拒否した理由。
「足の怪我が理由では有りません。ただ……もう、疲れたんです。妻と息子の生存を信じて居ましたが、家はもぬけの殻で家から近いこの領域には避難してきていない……という事は恐らく既に亡くなったのでしょう」
男性は話を続ける。
「それを実感してから、私は後を追うべきかと迷っていました。毎晩、夢の中で妻と息子が言うんです……何故あなただけ、なんでお父さんだけが生きてるの?って。だから私はこの場所で死にたい。安田さん達には感謝しかありません、どうかこの先も無事で生き延びてほしい。提案通り中央区へと行くべきです」
安田さんはその決意を聞いて「分かった」としか言わなかった。そして、俺の提案である中央区への移動を了承した。
男性に対して俺は何も言わなかった。それは、中央区でも何度か見た光景だったからだった。
誰もが最初は生き延びる事に必死になっており、他の事を考える余裕等無い。だが領域での暮らしが安定し自身の状況を見つめ直す時間が出来たことで、他の選択肢が見えてきてしまったのだろう。
「それでも私は恵まれていた。魔物に襲われ亡くなった方々のように、一方的に与えられる恐怖の中で死ぬ事が無いのだから」
その男性の言葉に、俺達は言葉を詰まらせ……何も返す事が出来なかった。
♦︎
領域の人達の事を考慮し、翌日の朝に中央区への移動は開始された。
大型トラック三台での移動。その先頭車両に俺が乗り、道を塞ぐ車だけをどかしながら進む。
勿論このトラックも特性が付与されいる。だがこれは現地で調達したものでは無く、俺がこういった移動の時に使う為に準備していたものだ。
そして、俺はトラックを運転する安田さんの横に座りながら会話を交わしていた。
「……君には驚かされてばかりだ。まさかいきなり大型トラックが出てくるとは」
「移動はなんとかします、って言ったじゃないですか。いやー本当にトラックを準備してて良かった」
青堀神社の一件の後、俺の『
その能力とは『
名前から分かるように、俺の作り出した武器や特性を付与した物を
俺がこんな格好をしているのもこの能力が有るからで、いつでも武器を取り出せるから手ぶらだっただけだ。
また俺が決めたセットを一瞬で装着出来る『
「さて、もうすぐ領域内ですね。これで一安心です」
「はは……移動で身構えていたんだが、馬鹿みたいだな」
「まあ『ホープ』様々と言う事で」
「はあ。私にも有れば良かったんだが、な……」
この三ヶ月で俺の能力は大きく発展している。兵器作成数日も上がり、領域の戦闘人員にも武器は行き渡った。その為勢力として見た戦力は上位に食い込んでいる自信は有った。
だが——大きな不安は有る。
俺の能力は個より組織の強化に向いたもの。それは『ホープ』に頼らずとも特性を付与した銃を与えるだけで大きな戦力となるからだ。
だが、もしも俺と同等に発展させた
その時、俺は勝てるのだろうか。もしも、の話で実際に居るかどうかは分からない。けれど、それでも俺は不安を拭いきれずにいた。
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