第96話 青堀神社 13 遺したもの

♦︎


 ※菅谷視点


 ——世界中に魔物が現れた四月一日。


 俺と称矢は青堀神社の近くに住んでいる幼なじみ。

 称矢の父は青堀神社の神主。そして称矢は神主になる事を決めており、その日も神社に行っているようだった。


 俺は暇だし称矢の様子でも見に行くか、と神社へと向かった。——だが、神社で待っていたのは突如現れたゴブリンに逃げ惑う人々。俺は必死に逃げるもゴブリンに囲まれ、その時に死を覚悟した。


 死にたくない!そう思った瞬間、ゴブリン達はまるで俺を見失ったかのように襲うのをやめ、周囲をキョロキョロとし始め……そして見つけた別な人へと標的を変えた。


 その後、『認識阻害』の能力を理解した俺は、恐怖で震えながらも称矢を助ける為に本殿へと向かう。



 そうして本殿に着くと、そこはまるで地獄のような光景が広がっていた。突然襲われ殺された参拝者の人々の死体や神社の関係者……その中には見知った顔の人も含まれていた。


 嘔吐しそうになるのを必死で堪え、本殿の中へ。そして関係者が休憩する部屋、その部屋で称矢は頭を抱えて震えていた。

 

「……称矢!」


「え……忍か!?どうやってここへ……というか今、消えて無かったか!?」


 そして俺は称矢に能力の説明を行う。驚いてはいたが、実際に見ていたので信用してくれたようだ。


「と、父さんが何処かにいるはずだ!忍、助けてくれ!」


「……!そうか、探してみよう」


 称矢が俺の肩に捕まり、称矢の父親を探す。そして、参拝者の待合室となっている一室に称矢の父親は居た。


 ——うつ伏せになり、身体中から血を流した姿で。


 称矢は慌てて俺から手を離して父親に駆け寄り、体を起こす。


「父さん!」


 俺はその姿に絶句した。


 称矢の父親は体に大きな切り傷が有った。その血の量を見るに……助からない、俺はそう思った。

 称矢もそれが分かってはいたのだろうが必死に縋り付く。


「称矢……ここから……逃げなさい……」


 称矢の父親は最後の力を振り絞り話した。


 ——称矢の父親は突然炎を操る力に目覚め、本殿周囲のゴブリンを倒し人を逃していたそうだ。だが——御神体が祀られた部屋に向かうと、そこで待ち構えていたのは体がニメートルを超えた大きな紫のゴブリンだった。

 咄嗟に能力を使い攻撃したが、手に持っていた大鉈にやられ、結果……相討ちとなったそうだ。


「……最後に、称矢の……顔が見れて、よかった……よ……」


 称矢の父親はフッと笑う。その顔は、とても優しい表情をしていた。


「いやだ……嫌だ!父さん、死なないでくれよ!俺、頑張って神主になるから、教えてくれよ!まだ何も教えてもらってねぇよ!」


「……もう、この神社は……称矢、ここに縛られず……普通に生きなさい……」


「父さんは守ろうとしたじゃないか!なら、俺も……ッ!」


「ハァ……誰に、似たのか……強情だ、な…忍君……称矢を……頼む……」


「え、ええ……任せて下さい」


「父さん……」




 称矢の父親は仰向けになり、天井へと片手を伸ばす。


「青堀の神社の……神々よ……願わくば……この二人を……護り……たま……え……」


 ——天井へと伸ばした手が、力を失った。




「とお、さん……!」


 泣き崩れる称矢、だが俺は称矢に触れて能力を発動。称矢を引き摺るようにその場から逃げる。


「どうして……こんな事に」

「馬鹿、声出すな!」




 逃げた先は御神体が祀られている部屋。俺はそこで黄色い小さな玉を見つける。一見ビー玉にも見えだがそれは淡く光っており、不思議と目を奪われてしまう。


「何だこれ……?」


 俺がその玉に触れると、それが手の中へと入り込んでいく。


「う、うわっ!」


 慌てて払うように手を振るが、その玉は手の中に消えてしまった——そして。


「……え?」


 頭の中に突然入り込んでくる領域についての情報。だが、それを知った後……不思議と落ち着いていた。


「ど、どうしたんだ忍?」

「……称矢、ここはもう安全みたいだ」




 首を傾げる称矢に、俺は知った情報を全て話した。


「信じられない……だけど、確かにあれだけいたヤツらがいないな……」


「この安全は……称矢の父さんが遺したものだ。だから今後どうするかは称矢が決めてくれ」


「父さん……」


 称矢は俯いていたが、暫くして顔を上げる。


「……忍。父さんが守ったこの神社を……俺は守りたい。父さんが遺したものを、捨てるわけにはいかない」


 称矢の決意に俺は頷く。


「ああ、それなら俺達二人でこの神社を守ろう」


「……ありがとな、忍」


「何言ってんだ、幼なじみなら当然だろ」


 そう言って俺は称矢の肩を叩いた。




 ——それから俺達は生き残った人々を集め、神社内を避難所として開放した。


 そして高校生の俺達じゃ不満が出ると思い、ハクシンという架空の人物を演じた。称矢が演じるハクシンの所作は、称矢の父親そのものだった。今思えば……称矢はハクシンという存在に、自分の父親を重ねていたのだろう。





♦︎


※暁門視点



「——それからは避難してきた人達を受け入れながら、食料探しの毎日だった。克也も玉男も暫くしてからだったな」


 菅谷は目を伏せながらそう言った。


「……じゃあ何で碧を攫ったんだ?神社を守りたいならまずは話せば良かっただろう。何故敵対するような行動をしたんだ?」

 

 菅谷は首を傾げる。


「それが……銃を見た途端何故か、神社を奪われる、と思ったんだ。だから妙に焦りを感じて冷静じゃ無かった。その時の記憶は……かなり曖昧で、神社に戻ってから後悔したよ」


「わ、わたくしもそうです!あの時は皆、恐怖でパニックのような状況でした。そこに早瀬さんが来て……あれ?でもその時、誰かが『連れ去ろう』って……言ったような?」


 確かに銃を見て危険だとは思うかもしれないが、それだけで混乱するものか?

 もしかしたら……菅谷達は誰かの『ホープ』で精神的な影響を受けていた?……それなら記憶が曖昧なのも納得出来るだろう。現に丸山は俺がここに来てからの記憶が曖昧なようだし。



 怪しい人物は居るが、決定的な証拠が無い。……仕方がない。まずは安全そうな厚木 称矢から接触してみるか。


 

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