第88話 青堀神社 5
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——翌朝。俺達は朝食を終えて、菅谷と共に青堀神社へと向かい始めた。メンバーは菅谷を除き俺と荻菜さんの二人だ。
俺は朝菅谷には聞こえない場所でそれぞれに指示を出した。それに荻菜さんは難色を示した。
『なんで私なの?あいつを見つけれるように孝君の方が良いんじゃない?』
それに周囲も賛同したが、俺にも考えが有った。俺は別に戦争しに行くわけじゃ無いし、どちらかと言えば交渉や工作がメインになると考えた。それに、孝には別の仕事が有る。
そこで、菅谷の反応を見て荻菜さんのような女性が居た方がうまく行くと感じた。それに本人は否定したが、俺が体験したような不思議な力も有るようだし活躍して貰おう。
それから俺の説得で荻菜さんは折れ、最初の予定通りに動く事になった。皆には頑張って貰う事になるが、上手く行く事を願う。
そして、今の状況。
「菅谷、お前の『ホープ』便利だな」
俺と荻菜さんは菅谷の肩に手を置きながら、青堀神社に向かって歩いている。ただそれだけで魔物はこちらに気付かないのか襲って来ることはない。
「……あんまり喋らないでくれ。魔物の体に触れたりすると一発でバレるし、たまに物音に反応して寄ってくる奴も居るからな」
話を聞いた限りだと、菅谷の『
だから道中の魔物を無視してここまで来ることが出来たし、椿に気付かれずに背後を取る事ができた。だが、攻撃したり魔物や人に触れると解除されてしまうようだ。
領域で隠れながら魔物の乱獲、などという使い方は現時点では出来ない。……菅谷が本当の事を言っていればだが。
だが、青堀神社に行ったら全ての会話は聞かれていると思った方が良いかもしれないな。裏でバレずに動くには苦労しそうだ。
そのまま万代橋を越え、小さな店が多く入っている商店街を抜ける。すると、青堀神社が見え……領域前には二匹の犬。
そこで俺は菅谷の肩から手を離す。
「お、おい」
俺の突然の行動に菅谷は驚き、その場に立ち止まる。荻菜さんは俺が何するのかを察したのか手を離し、呆れた様子を見せる。
俺が動いた理由は、ここで少し力を見せておけば交渉も捗るだろう、と思ったからだ。菅谷に見せれば他の連中にも伝わるだろうし、今の内に敵対するのが損と思わせておきたかった。
俺は刀を抜いて犬の方へと歩み寄る。
「おい!」
犬程度で菅谷が叫ぶのを見るに、コイツは身体能力が向上するのを実感するまで戦ってはいないのだろう。まあ、安全に移動出来るのであれば当然か。
俺を見つけて襲いかかる犬達。俺はそれを上半身だけの動きで躱す。そのまま、可能な限り余裕があるように見せながら回避し続ける。
そして、それを見つめている菅谷は口を開けたまま唖然としている。
この辺で大丈夫か。
そう思った俺は刀を振るい、犬の首を正確に斬り落とす。菅谷がどう見えてるかは不明だが、簡単に倒したように見えていれば充分だろう。
敵対するのが損で、俺の力が有用だと少しでも思わせられれば充分だ。
刀をしまい、菅谷に顔を向ける。
「おい、行くぞ。お前が行かないと俺達は領域に入れないんだから早くしろ」
「あ、ああ……!」
菅谷は我にかえると、慌てて近寄って来る。その背後でゆっくりと歩いて近づく荻菜さんは呆れて額に手を当てている。
それから——菅谷は領域の中に入り、俺達は領域前に待たされる事になった。
自由の身となった菅谷たが、このまま逃げる可能性は無いだろう。出発前には散々脅しておいたし、敵対しなければ青堀神社に居る連中には手を出さない事も伝えてある。
一番困るのがここに居る全勢力で俺と荻菜さんを潰しに来る事だが……菅谷は荻菜さんに鼻の下を伸ばしてたし、いきなり殺すつもりで襲いかかる事は無いだろう。捕縛程度なら可能性はあるが。
荻菜さんは少し危険だが、その辺も考えての人選だ。
それに加えて兵器操作も菅谷には見せていない。実際、捕縛されても俺ならどうとでもなる。その場で作って、兵器操作で倒すなり縄や錠を壊す事も出来るはずだ。
「暁門君、あなた凄く悪い事考えてる顔ね。それじゃ、交渉より脅迫する気満々なのがバレるわよ」
荻菜さんの声で俺は考え事をやめる。
「いやいや、生き残り同士協力しましょうって言うつもりだって。でも、早瀬を連れ去った事はちゃんと謝罪してもらわないとな」
「あなた達の話聞いてたけど、ハクシンって奴が気味悪い感じね。注意した方が良いんじゃない?」
「勿論そのつもりだ。能力も何もかも未知数過ぎるんだよな……まるで、存在が……」
そこで、走っている菅谷の姿が目に入る。どうやら一人だけのようで、仲間を連れてきた様子は無い。俺の心配は一つ、杞憂に終わったようだ。
「さて、相手はどう出るかな」
「今更暁門君に口出しするつもりも無いけど、出来れば穏便にね」
「大丈夫、俺からは手を出さないよ」
俺はそう言って、両手を上げながら領域へと近づく。その足は抵抗無く領域の境界を越え、青堀神社の領域内の地面を一歩踏み締めた。
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