第62話 対立する者達 13
「銃が浮いてる……?」
そんな驚いたような早瀬の呟きが後方から聞こえた。
「まだ二つが限界だが、俺の周囲の武器等を操作できる能力のようだ。元々は移動用の能力みたいだが……」
この能力の取扱説明書には、重い物の移動に役に立ちます!とだけ書いてあったのだが、俺が試行錯誤した結果……移動だけでは無く簡単な操作ならこの能力で出来る事が分かった。
意識するだけとは言え、銃の向きを固定しながら引き金を引くという動作を同時に行うにはかなりの時間を要した。更に一つでは満足せずに、二つ、三つと動かす事を練習した所、何とか二つまでなら操作出来るようになった。
問題点は物凄く頭を使うので疲れる事と、宙に浮いた銃が手に触れていない為に『武器修復』が使えず、そのまま弾の補充が出来ない事。だが、一手目の攻撃としての火力は倍増している事になる。
「小僧!はよせんか!」
狼が近づいて来た事で爺さんが焦り始めたようだ。距離は三十メートル程……これなら当たるか?
「行くぞ」
俺は前にいる爺さんを避けて、四丁の銃の引き金を一斉に引いた。『連射』の特性が付与され、ほぼ同時に放たれる二十発の銃声は建物内に響き、その弾丸は狼へと向かう。
だが、銃弾が放たれた瞬間に狼が危険を察知したのか横に跳躍した。そのせいで体に擦りはして傷は負ったが、大きなダメージは与えていないように思える。
この速さはアカグロを上回っているかもしれない。
俺はすぐに宙に浮いた銃を引き寄せ、そのまま手に触れさせる。
「『武器修復』『武器修復』……」
すぐに弾を補充し、銃はまた宙へ。
そこで狼が全力で駆け始め、一気に距離を詰め始める。だがその前に爺さんが立ち塞がり、刀を手に駆ける狼に対応する。
そのまま爺さんの射程へ入るか、という時。狼は大きく跳躍し、爺さんの頭上を飛び越えてきた。
……危険だと判断して、先に俺を狙ったか。
俺は跳躍した狼に一斉に銃弾を放ち、そのまま爺さんの元へと走る。その間にも銃を引き寄せ弾を補充し、着地したであろう位置へと宙に浮いた二丁の銃で射撃する。
狼は後方だが、『兵器操作』は前後ろなんて関係が無い。こうして逃げながら後ろへと銃弾を放つ事も可能だ。
「ギャウンッ!」
狼にうまく当たったのか狼から声が上がる。俺は爺さんの背後へと周り、そこでやっと振り返る。
すると、狼の右前脚には傷が有り、そこから紫色の血が流れているのが見えた。
機動力を削げたのは大きい。このまま押し切る。
狼は三本の脚で器用に走り、俺と爺さんへと近づく。
そこに爺さんは前に出て狼の胴を刀で斬りつける。それを狼は避け切る事も出来ず、胴には傷が入り、そこから血が吹き出すように流れた。明らかに怯んだ狼に、俺は好機だと思い銃弾を発射する。
「ギャウゥウッッ!!」
銃弾の内、数発は確実に体を捉えた。狼は見るからに動きが鈍り、その場に横たわり動かなくなる。
俺達も強くなったとはいえ、この狼……アカグロと比べて呆気ないもんだな。
俺が弾を補充しながらそんな事を考えていた時——狼が首を上げ、大きく息を吸い込んだのが分かった。俺と爺さんは何か来るのが分かり、すぐに狼に止めを刺そうと動く。
狼に俺の銃弾が全弾命中し、首から体に穴が開き紫の血が吹き出す。銃弾から少し遅れ、爺さんが足を強く踏み締めた刀の一撃を狼の首目掛け振り下ろした。首の側面は大きな傷が入り、そこからも血が溢れ出す。
だが——倒し切るには一歩及ばなかった。狼は満身創痍では有るが、辛うじて……生きていた。
そして俺と爺さんの次の攻撃が来るまでの合間に、狼は大きく吸った息を——遠吠えとして吐き出した。
「ワオォオゥゥ——……」
その狼の哀しげな遠吠えは……静かな建物内全体に響いた。だがその直後に爺さんの刀の二撃目が入り、狼の首を斬り落とす。そして狼の体は力を失い……完全に動かなくなった。
最後の遠吠えは謎だが、ボスを倒せば領域が解放される筈だ。後は死体に残る玉さえ取れば良い。
そう思って俺は狼の死体に近づいて行く。そして、消失していく行く死体を見ていたが……死体が消えた所でその違和感に気付く。
「……玉が無い?」
何故か死体が消えた場所には玉らしきものは何も残っていなかった。しかも、アカグロの時とは違い建物内は未だに赤と黒の色のままだった。
明らかにアカグロと比べて弱いボス、そして変わらない建物内の様子。そして——狼の最後の遠吠え。
俺はそこでハッとして、皆に叫ぶ。
「壁を背にして武器を構えろ!まだ終わって無いぞ!」
俺の叫びと同時に、どこからか足音が聞こえてくる。その足音は一つでは無く、かなりの数が重なっており、次第にその音は大きくなって来る。
俺は銃を構えながら遠くを見据えた。すると、遠目にその姿が見えて来るのが分かった。
それは——紫色の巨大な狼を先頭に、迫って来る犬の群れ。その数は……十匹どころでは無く、数十はいるように見える。
「城悟は前に出て囮になれ!爺さんはボスに専念しろ!俺が出来る限り数を減らす!それぞれ最善を尽くして耐えろ!」
俺の声と共に高まる緊張感に、皆が顔を硬らせる。だが、怯えて叫ぶような奴は俺達の中にいなかった。
二匹目となる紫色の狼、そして数十もの群れ。それは、次第に俺達へと近づいて来ていた。
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