第61話 対立する者達 12
「前に三匹、右手に二匹」
俺達は孝の能力による索敵を使いながら建物内の敵を倒していた。奇襲を受けない分楽だが、これに頼るのも程々にしないと勘が鈍りそうだな。
俺と爺さんが二手に分かれてそれぞれを処理し、また先へと進む。そしてそのまま順調に進んでいくが、突然孝が顔を顰めて立ち止まる。
「どうした?」
俺が声を掛けると、孝はゆっくりと口を開いた。
「まだ能力の範囲外のようだが……何か嫌な気配を感じた。これは普通の魔物じゃないな」
「それがボスだろう。ただ……まだ周囲を処理し切れたとは言えないな。見つけたらここまで引っ張るか」
俺がそう言って爺さんに目配せをすると、爺さんは呆れたように話す。
「相変わらず老人への扱いが酷いのう。まあ、やるしか無いかのう」
「爺さん頼んだぞ。ボスを見つけ次第、俺と爺さん以外は下がれ。絶対にボスが来ない距離を取れ」
俺の指示に周囲は頷く。
「もしもの場合は……城悟を盾にして他の奴らは渦の外だ。城悟、出来るな?」
城悟を盾にする、というのは何も城悟を見捨てろという意味では無い。何故なら、城悟の『ホープ』が時間を稼ぐのに最適な能力だからだ。
城悟の『
その力は、城悟が防御体制を取っている場合にあらゆる攻撃を軽減するというもの。実際に、ゴブリンが持っていた刃物では傷一つ付かず、衝撃さえも無かったらしい。
ただし、検証も何もしていないのでその上限は不明。だから信用し切って上限を超えた攻撃を受けたら、即死するなんて事も有り得る。絶対なんて名前が付いているが、ボスに使うにはまだ不安要素が有りすぎる。
城悟は少し緊張しながら答える。
「ま、任せとけよ!ボスだろうがオレの能力なら大丈夫……だと思う」
「そこは言い切れよ……因みに前戦ったボスは身体能力上がった俺や爺さんを簡単に吹き飛ばすだけの腕力が有ったからな。逃げれるなら逃げろよ」
「そ、そうするわ……」
「吹っ飛んだのは小僧だけなんだがのう。儂は大鉈を耐えたぞ」
爺さんがニヤリと笑いながら口を挟む。
「爺さん余計なことを……だが、今の俺なら大丈夫だ。むしろアカグロなんて攻撃される間も無く、一方的に撃ち殺してやるよ」
「ま、やってから言うんじゃのう。己の力を過信しとると、また大怪我をするぞ」
くそ……前がそうだったせいで言い返せない。爺さんなりの忠告なんだろうが、怪我したの事を言うのは余計だ。
そこで早瀬が手をポンと叩いて納得した表情をする。
「ああ!それで灰間さん頭に包帯巻いてたんですね!初めて会った時気になってたんですよ」
「早瀬……後でダンジョン特訓が待ってるからな……」
「ええ!何で!?」
驚愕する早瀬を放置して、俺は孝へと目を向ける。
「話はここまで。孝は『
「分かった」
そうして、俺達はまた先へと進み始める。だが、孝は首を傾げるばかりで進むのを止めることはなかった。
「変だな……嫌な感じはするが、近づいている気がしない」
そう呟く孝。
「なら……中央辺りに居るんだろうな。だが、この場所だと渦が遠すぎる。一度来た道を戻って入り口へ行くぞ」
そうして……戻ろうとした時だった。俺の脇を爺さんが全速力で抜け、後方へ向いて刀を構えた。すぐに俺も後方へと視線を移し、銃を構える。
その視線の先——そこには犬の魔物の三倍は有りそうな、紫色の毛をした巨大な狼の魔物がこちらへとゆっくり近づいて来ていた。
俺はそこで慌てずに指示を出す。
「俺達はこのまま戦闘に入る。城悟は皆の前で守り、荻菜さん達は後ろへ回って魔物の警戒と対処」
皆がすぐに言われた持ち場へと移動する。
……皆を連れて来たのは失敗だったか。まさか遭遇戦になるとは思っていなかった。だが、紫の狼からはアカグロ程の威圧感を感じない。ダンジョンの難易度からして、アカグロよりも格下の可能性が高い。
「小僧」
爺さんが刀を二本持って構えながら呟く。狼との距離は近づき、五十メートル程か。
「ああ。最初から全力で行く」
そう言うと、俺は拳銃を二丁地面に投げて、更に懐から新たな拳銃を取り出して両手に持つ。
「……暁門、何をするんだ?」
後ろで身構える城悟が、俺の行動を見て呟く。
「まあ、見てろって」
領域支配後、俺は魔物を倒して身体能力を上げていただけでは無い。俺の『
そして、新たに使えるようになった技能は——俺の戦闘への強化に繋がるものだった。
「『
そう呟くと、地面に投げた銃が宙に浮き始め、その銃口を狼へと向けた。
さて、新しい力のお披露目だ……派手にいかせてもらう。
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