第58話 対立する者達 9
その後、孝が俺達を拠点の中に招き入れた。城悟の姿に睨み付けるような様子は有ったが、それ以外は特に敵意も無さそうだった。
中は何処かの事務所の二階。階段一本で守りやすい構造なのは、考えられているのだろう。そして俺と孝それぞれの仲間が、ソファで対面となり並ぶ。
場に少し緊張感が有るのは、俺達が敵の可能性を捨て切れていないのだろうか。
「暁門、無事で本当に良かった」
孝は笑顔でそう話す。少しやつれた感じは有るが、以前と変わらない顔だ。
「孝も無事で何よりだ。聞いたぞ?後ろの城悟との事」
孝は俺の背後に居る城悟に目線を移し、大袈裟な程ため息を吐く。そして、間を置いてからその口を開く。
「……気になっていたが、何で城悟が暁門と一緒に居るんだ?俺があれだけ説得して駄目だったのに、まさか暁門の説得で簡単におちたのか?お前は人を選ぶんだな」
「そ、それは……」
孝少しとげの有る言い方に、城悟が言葉をつまらせる。
「孝、勘違いするなよ。城悟は力尽くで避難所から解放したんだ。それこそ脅迫紛いの行動でな」
「……脅迫紛い?あの暁門が?けど、そう言えばお前口調と雰囲気が……」
「ああ、俺がだ。あれから色々と有って、俺は自分が正しいと思った事を貫く事にした。手段や評判なんてものはもう気にしない」
孝は眼鏡を指で上げ、真剣な表情となる。
「その態度から察するに、暁門も『ホープ』持ちなんだな?そうでなければ、力尽くで解決など無理だ」
爺さんの強さなら解決出来そうだが……ややこしくなるから言うのはやめとくか。俺はそのまま孝の話を聞く。
「それと、俺と同じように全て人達を救うのは諦めてるんじゃ無いか?選ばれた人だけでも生き残れば良い、と」
「……いや、孝。流石に思考がぶっ飛び過ぎだろ。何だよ選ばれた人って……」
俺の言葉に孝が眉間に皺を寄せる。
「『ホープ』は、この危機的状況で未知の存在から選ばれた者だけが得た能力だ!俺もお前も、生き残る為に選ばれたんだ!暁門、お前もそう思わないか!?」
あぁ……孝の残念な所が出たな。見た目は知的イケメン、身長も平均以上で頭も良いのだが……少し考えがぶっ飛ぶ時がある。
俺も確実では無いが、トリセツの上の奴が『ホープ』を与えたのは、人々を争わせる為の可能性が高いんだが……。
こうなってる時のコイツは話を聞かないので面倒だ。
「孝、『ホープ』はどうやら人同士を争わせる為に存在するみたいだぞ?」
「そんな訳が無いだろう?人類には争う理由が無い。有るとすれば食糧問題だが……いや、それでも……」
孝はぶつぶつと呟き、自分の世界へと入り込んでいく。やはり、面倒だ……さっさと話を終わらせよう。
「孝、本題に入ろう。孝と後ろの四人、全員俺の下につけ」
いきなり態度を変えた俺に、五人の目が見開く。そして、それぞれの手が動こうとしたのが見えた。もし動いていたら俺も反撃をしていたが、どうやら踏みとどまったようだ。
「暁門の下に……?俺達は全員『ホープ』持ちだぞ。お前達が下につくのが当然なんじゃ無いか?」
「孝、『ホープ』持ちでも弱い奴は弱いし、持たなくても強い奴は居る。 例えばそこの爺さんは『ホープ』を持っていないが、本気出せば……俺以外全員、秒で殺されるぞ?能力なんて使う暇もない」
孝は少し睨み付けるように俺を見据えて、口を開く。
「普通の人がそんな事出来るわけがない。暁門、交渉で大袈裟に言うのは有りだが、過度だと呆れられて終わるぞ?」
「あーなら、もし俺と爺さんの強さを見た後、孝達が同じ考えならお前の下につく。逆に考えを改めたなら俺に従ってくれ」
孝が背後に目線を移すと、背後の四人はニヤニヤしながら頷く。どうせ俺達が大した事無いと思っているのだろう。
そして、孝が口を開く。
「……分かった、暁門の提案に乗ろう。だがあくまで俺達が入れるのは『ホープ』持ちのみ、それ以外はここから去ってもらう」
「別に良いぞ。まあ、どうせそんな事にはならん」
俺はヒラヒラと手を振って孝の要求を飲む。その俺の態度に孝以外の四人は明らかに敵意を見せているようだ。
良いぞ、適度程度に怒ってくれた方が、後が楽しい事になる。それに、俺は計画通りに事が運び内心ではニヤニヤしていた。
俺は余裕の表情でソファにふんぞり返り、爺さんはやや交戦的な表情。孝側の四人は明らかに敵意を見せ、俺側の連中は呆れた表情をしているが、誰一人心配する表情をしていない。そして孝は眼鏡を指で上げ、俺を見ながらフッと笑っている。
——そして話し合いをした結果。強さを披露するのは明日の朝。
場所は……先程行った、ダンジョン化した業務用スーパーだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます