第42話 支配の恩恵 4 トリセツ

 食事を終え、俺はホームセンターに有るマットレスと布団のオブジェクト化を解除し、広げて横になった。

 頭の痛みは有るが、戦いの疲れからか俺の瞼はすぐに閉じ——そのまま俺は意識を手放した。



♦︎



 そして気がつけば黒い空間。ここは前にトリセツと話した、俺の意識の中だ。


 やはりそこにはトリセツの姿が有った。相変わらず目が輝き、小さいのは変わらない。だが服装がメイド服装からタイトスカートのスーツになっていた。


「またここか……まあ、聞きたい事も有ったし丁度良いか」


 俺がそう呟くと、トリセツが近くに寄って来た……というよりも急に俺に飛びつくように抱きついてきた。


『ご主人様ああぁあぁ!!初めての領域支配おめでとうございます!このトリセツは非常に感動してます!流石です!』

「おい!離れろ!俺に子供に抱きつかれて喜ぶような趣味は無い!」


 俺は無理矢理トリセツを剥がそうとするが、トリセツは頭を押されながらもその手を離さない。


『だって本当に嬉しいんですよ!領域支配を達成したの、ご主人様が日本で八人目ですよ!?』


 そこでトリセツを引き剥がそうとしていた俺の手が止まる。


「……やはりお前は領域の件を知ってるんだな」


『そりゃそうですよー。その為のサポートですし。あ、ただ領域支配については、決まりで言えなかったんですよ!?言い忘れじゃありませんよ!?』


「決まりだと?それは誰が決めてるんだ?」


『それは残念ですが言えません!ですがその決まりは絶対で、もし言えば私は消えちゃいます!』




 トリセツの言う事が本当かは疑わしい。だがそれに関しては問い詰めても絶対に言わないんだろう。


「じゃあ言える事だけでいいから答えろ。世界をこんな風にしたのはそいつか?それと、支配による順位による報酬は何だ?」


『前者は半分イエス、後者はまだ決まっていないようですね』


「半分?」


『あ、これ以上は言えません』


 悪びれた様子も無くそう言ったトリセツの態度に俺は頭を押さえる。


「はぁ……じゃあ報酬が決まって無いってのはどういう事だ?」


『あー……えっと、その……分かりません』


「結局何も分からないのかよ……なら、お前のようなサポートの役割と、それは『ホープ』持ちの人間全てに付いているかどうかを教えろ」


『私たちサポートは、有能そうな能力者に付き添い、その手助けをするのが役割です。その数ですが、現状だと『ホープ』持ちの四分の一程度でしょうか? あ、私はご主人様を自分で選びましたが、どうやらランダムに決められた子も居るみたいですねー』


「手助けってのは、この世界を生き残る為?いや……違うか。恐らく、領域の支配により発生する人間同士の争いへと誘導する為の手助けだろ?」


 俺の質問にトリセツは顔を伏せて珍しく口を噤み、俺はそれに違和感を覚えた。

 いや……これは答えられないから、トリセツは肯定の意味で無言を返事としたのかもしれない。もしそうだとしたら、トリセツは随分と腹黒だな。





 分かったのは魔物や領域により、意図的に世界を危機的な状況に陥れようとしてるやつが居るって事だけか。

 そいつと繋がっている以上トリセツも信用出来ない。これからは自分で全てを判断して行動しないと、足元を掬われそうだ。


「……分かった。もう良い。他に何か伝える事は無いんだろうな?」


 俺の言葉にトリセツは表情を明るくして嬉しそうに微笑む。こう見ると、悪意は有りそうには見えないが……やはり分からないもんだな。


『あ!そうだ!ご主人様の初支配のお祝いに、いい事教えちゃいます!これは拠点造りに絶対必要な事ですよ!それは——』


 


 そうして、二回目となるトリセツとの話は終わった。結局得られた情報は少なく、思った通りにはいかないようだ。

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