12

「ご無沙汰してます。タケル君の同級生の澤部です」


「あぁ、あんたか。入りなよ」母親の表情は冴えず、時間が時間だけに眠たいだけなのかもしれない。


「夜遅くにすみません。ヒサシさんから今日がタケルの命日だって聞いたんで、線香だけでも上げさせて貰えませんか?」


「あの子が死んだ時以来じゃないかい? 君がここに来たのは」


リョウの背筋が冷水を掛けられたようにヒヤりとした。思い出話をするでもなく、瞬時に記憶を取り出す記憶媒体のように精度の高い作業を、この母親は一瞬でやってのけた。


ヒサシさんが話してたのとだいぶ印象が違うでは無いかと、リョウは感じていた。


ボケているのでは無いのか?


「ちょっと記憶にないですね」


「まぁいいよ、私の記憶にはしっかり残ってるからさ。早く上がって線香を上げておくれよ『澤部リョウくん』」


仏壇にはふたつの遺影とふたつの位牌が置かれている。やや埃の被った方は父親の位牌に違いないと、リョウはわかった。


家族間でこんなにも愛情の比率が違うことに恐怖すら湧いてくる。サイコパスというのはこういった精神状態の人を指すのではないだろうか。


リョウは先行を1本箱から取り出し、火をつけたロウソクに線香の先を添えた。


りん棒でおりんを鳴らし手を合わせ黙祷を捧げる。


脳裏に浮かぶのはなんだ?


それが自分の頭で響いたのか、耳から直接聞こえたのか分からないほどリョウは鮮明で明瞭な声を聞いた。


ハッと後ろを振り返ると、母親が包丁を握ってたっていた。


「今、目をつぶってた時に思い浮かんだものはなんだい? タケルの顔か? お前が殺した石原サチの顔かい?」


「なに、言ってるんですか」リョウは腰が抜けてしまい尻もちをつきながら畳の上を必死で移動した。


「タケルが家を出る直前に言ってたんだよ。アイツがやったんだ、って。アイツってあんたの事だろ。あんたが石原サチに悪さしたんだろ。あんたがタケルを殺したようなもんなんだよ。お前もおとべも死ねばいい!」

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