第21話 島の神話とハイヌウェレ
「旅に出よう」
そうウルデンデが言ったのがはじまりだった。ぜんぶで七人いるリーダーたちのなかでももっとも勇敢で思慮ぶかい、そして思いやりのある男だった。
「ここは悪魔たちで満ちてしまった。この地はすてて、旅に出よう」
「そとの世界にも食べものがあるだろう」とメイカマイカが言った。
「こわい敵がいるかもしれない」とクリシュナバナイが言った。
「敵がいたらおれがまもってやる」とマリンガが言った。
「話せる相手ならおれが交渉しよう」とアンダライダが言った。
「だれかきずついたら私が癒してあげよう」とサラスバティが言った。
「こまったことがあればみなで助けあおう」とナガランジャヤが言った。
こうして、ひとびとは七人に率いられ旅に出た。悪魔が荒らして枯れた森のなかをえんえん歩いた。ウルデンデを先頭に一列になって、あかんぼうは芭蕉の葉にくるまれて、すこしおおきくなった子供は女たちに手をひかれて、おおきくなった子供はちいさな荷物をかついで、もっとおおきくなった子供はおおきな荷物をかついで、そうして大人たちは手に手に武器をもって。いちばんうしろにはおおきな槍を手にしたマリンガがまわりをにらみながらついてきた。
やがて大陸のはしまで辿りつくと、ウルデンデに導かれみんな海へと漕ぎ出した。
船出の夕べ満ちていた月がすこしずつ欠けとうとうあとかたもなくなった日、海が尽きて島があらわれた。しろい砂浜、みどりの森はふかく、雲のむこうにそびえるのは岩だらけの山。そのうつくしい島に住もうとウルデンデはきめ、スリナビレプラヤ島と名づけた。
それはずいぶんむかしのことだった。まだハイヌウェレが豊穣の女神と呼ばれていたころのことだった。
「よくおぼえてるね」
「だってなんども神殿のばあちゃんたちが話してくれるからね」
「でもあたしはこまかいとこまでおぼえらんないもん。サンガはえらいよ」
ごろんと寝がえりうって、サンガに背を向けると目をとじた。まぶたのうらに月と星のひかりがのこって、耳にとどく虫たちの声は星のささやきみたい。
島にあがったウルデンデたちがさいしょに聞いたのも、ゆたかな森に王国をきずいていた虫たちの声だった。森の奥には獣と鳥たち、さらに奥へ進むと緑がどんどん繁茂して、さかえにさかえた緑のまんなかにハイヌウェレがいた。
さいしょハイヌウェレとひとびとの関係はうまくいっていた。かのじょがわらうと花がいっせいに咲いて、つぎつぎとくだものが実った。かのじょが手をふれると草木はぐんぐん伸びて、芋や粟がたくさん
おまけにもしうっかりハイヌウェレが人間にふれてしまったら、そのひとはもう苗床も同然、いくつもいくつも植物が生えてきてしまってふつうの人間ではいられない。
みんなよわってリーダーたちへ、どうにかしてくれと泣きついた。とうとうウルデンデは、ハイヌウェレを封じてしまうときめた。それはくるしい戦いだった。何十人もの魔法つかいの力をぜんぶあつめて、強大な力をもつハイヌウェレをやっと山の奥の奥に封じることができた。ハイヌウェレはなにが起こったかわからなかった、なぜ自分が封じられなければならないのか理解できなかった。とうぜん必死であらがって、そのときたくさんの魔女が命をおとした。さいごにハイヌウェレの封じられた地には祠が建てられ、だれも近づいてはならぬと定められた。それはむかしのことだった。はるかむかし、人間がこの島に住みだして間もない頃のことだった。
またヤモリが鳴いた。夕方に雨をたっぷり降らせたおかげで空は晴れわたって月は金色、森の奥では妖魔たちが見えないなにかといまも戦っている。
***
今日もエㇽダは湿原へと向かった。
「今日こそつかまえるっ」
「恋してるみたいだよ、エㇽダ」
ふふっとサンガがわらうと、森からの風で髪がやわらかくゆれた。
「なっ、恋?」
はじめて聞いた言葉みたいにエㇽダは頭のなかでなんども「恋」と反芻した。もちろん恋って言葉は知っているけどそれが自分にかかわりあいあるものだなんていままで考えたこともなかった。そもそも恋ってなんなんだ。
だいすきで、いつもそばにいたくって、もっとよく知りたくって、自分のものにしたいってこと? なんだ、サンガのことだな。ティッカは――近いけどべつにあたしのものにしたいってことないや。魔女は、だいきらい。オオトカゲはどうかな。うむむ、あの子のことは――
「うん、これは……恋かもしんないなあ」
ふかい考えもなしにこぼれた爆弾発言が風にのってとどいてしまって、おかげであわてたのはティッカだ。
「待て、おれもついてってやる」
魚とりをとちゅうで
「なあに、ひとの恋をじゃまするつもり?」
「心配だからついてってやるってんだよ」
オオトカゲが
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