魔王様は逃走したッ!

@WaTtle

第1話 マオ、逃走ナウ。

 マオは戦慄した。

 骸骨兵士、スケルトンが馬に乗って城へと向かってきた。

 彼女はそれを見てあることを確信した。

(あ、勇者がわたしを殺しに来てるわ)

 彼女の額から汗が一滴、また一滴とたらたら流れてきた。

 スケルトンが入城したのを見て、決心した。

 なに、簡単なことだ。

 逃げ出す算段を立てることだ。

 マオは前魔王から委任されてまだ数ヶ月。

 世界中の魔物の発生源とも呼ばれる存在なのだ。

 だからといって、マオはまだ少女。

 生まれてきてからまだ17しか経っていない。

 剣術、魔法どれにおいても優秀ではあったが、部下の四天王には劣っているのだ。

 それでも魔王。前魔王より弱くても魔王は魔王。彼女の首には相応の価値があるのだ。

 その首は戦利品になり、人間の街の大広場で民衆の前で晒される。

 どんな表情で晒されるのだろう。いや、晒されるだけで済むのか。

 首を犯したり、遊び道具にされるのだろうか。最悪、防腐処理をされて、剥製のように永遠に飾られるのだろうか。

 マオの頭の中では、そういった悲観論が募り始めていた。

 こころなしか、首が軽くなった気がした。まるで捧げることが決まったかのように。

 それを払拭したのは――。

「魔王様ッ! 勇者が攻め込んできますッ!」

 部下からの怒号。それが彼女を現実へと目を向けさせた。

(怯えたって仕方ないわね。だったら――)

 マオは冷静になろうと持ち直した。

 そして、あることを思いつく。

「兵を集めろッ! 全員城門で迎え撃てッ!」

 マオは豪気な態度で城中に響き渡るように号令を出した。

『おおーーーッ!!』

 城にいる兵士たちは雄叫びを上げると、城門へと向かって地面を鳴らしながら走っていった。

 さて、マオはというと、誰もいないであろう自室へ走っていった。

 マオがなにをしているのか、それは装備品の脱着だ。

 重々しい魔王の鎧を脱ぎ捨て、就任の際に託された魔剣を置き、就任前の軽装を着始めた。

 鏡で自分の姿を見た。あとは帽子で角を隠せば、どこにでもいる魔族、いや、人間の女性に見える。

 これなら、一般の兵に勘づかれることはないだろう。

 次に自室の窓からロープを垂らし、裏庭へと降りていく。

 兵士たちの目を気にしつつ、魔王城の裏門に着いた。

「あとはここから出るだけ――」

「貴様、そこでなにをしているッ!」

 案の定、リザードマンの兵士に見つかってしまった。

 しかも、今のマオの恰好は人間の女性に見える。魔王には見えない。

 ここで牢屋に連れてこられたら、それこそ時間はかかるだろうが、魔王だとバレてしまい、勇者と戦って、首を刎ねられる。それが運命。

 マオは深い溜め息を吐いた。

「悪いけど、ちょっと眠ってもらうわッ!」

「ほざけ、人間風情がッ!」

 やっぱり。マオは笑った。

 これからの旅路、この格好で問題ないかと不安だったが、角を隠せば人間の街でも生活できるだろう。

 マオは細剣から放たれる炎の衝撃波で兵士を吹き飛ばした。

「ば、馬鹿な……ッ!?」

 兵士は倒れた。今のうちだ。

 マオは裏門から魔王城を出た。

 喜びに浸っている場合でもない。

 どこか勇者のいないところまで走り続けた。

 そこで思いつくのは人間の街。だが、人間の金など持ち合わせていない。

 だったら、いっそのことダンジョンまで逃げるのはどうだろうか。

 ダンジョンだったら、魔族だとバレても問題ないだろうし、自給自足の生活を送れる。

 そうと決めたら、まずは魔王城から近場のダンジョン、勇者が来たルートとは反対のダンジョンへと走っていった。

 こうして、魔王のプライドを捨てたマオの逃走劇が始まったのであった。

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