まいご

@rot6

第1話

あなたの言う事なら何でも聞きます。

すべて受け入れる。拒否することはない。

自由が恐ろしい。どんなものにでもなれるなんて恐怖以外の何物でもない。あなたの人生は決まっています。これから先、起こる出来事を予言して差し上げましょう。そんな人が目の前に来てくれれば、どれほどうれしいことか。

「騒音が迷惑だって苦情がきてますよ。あちゃー、かなりひどい有様だね。壁の傷はなんだい。うごかない。固まっちゃてるよ。そりゃそうか、突然知らない人が家に入ってきたら誰だって驚くよね。まあ安心なさい。別に君を襲おうってわけじゃない。何も不審な人物ってわけじゃないんだよ。通報しちゃだめだよ。そんな風に言うと、さらに疑われちゃうのかな。まあ、でも状況が状況だからね。何を言ったところで君の心は開くはずがない、と思うけど友達にならないかい。無反応か。そうやっていつまで固まってるんだか。ああ、そうだそうだ。自己紹介ってのをやってなかったね。名前はなんとでも読んでくれ。特に、とんかつ、ハンバーガー、ピザ、ラーメン、とにかくカロリーの高い食べ物であたしのことを読んでくれるとありがたい。ところで、君はたい焼きをどこから食べるタイプかい。頭かな、しっぽかな。何も答えてくれない。あたしは足のほうから食べるのが好きさ。顔のない胴体ってのが苦手でね。暑い。暑い。暑い。この家エアコンもついてないのか。ちょっと飲み物取ってくるね」そう言って、立ち上がり部屋を出ていく。急がないと。こういうときはどうすればいいんだ。早く警察に電話しないと。何されるかわからない。あたりを見回す。めくって下敷きになっていないか確認する。くそっ。こういうときに限って見つからない。それから本能に従って素早く決断する。ガラガラガラ。多少の音は仕方がない。大丈夫、こんなの怖くもなんともない。窓から飛び降りる。まずい、この態勢じゃ、こんな簡単なことに思い当たらなかった。頭から落ちていく。体を振って半回転するか。そんなの無理だ。覚悟ができないままに目を瞑る。このままでは、このままでは。その心配はいらなかった。止まる。空中に浮いている。

「君、ここから飛び降りようだなんて、命はもっと大事にしなきゃ。君の命によって救われる人は絶対にいるんだよ。例えば、飢えている人にその体を捧げるとか」

手を合わせたあと、豪快に口を開く。

「やっぱり、これが一番合うね」

命を片手に牛乳パックを飲み干した。












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