第6話


 ──リリスが取り込まれる──


 それは、正直に言ってもっとも考えたくない状況だ。

 恋人としても、冒険者としても。


「仮に取り込まれていたとして、俺達が出来ることは?」


「スタンピードを止めるだけなら、取り込んだモンスターを倒せばいい。なかなかにキツイ勝負になるが出来ないことはないだろう。俺達の全力でいけば──」


「そっちじゃねぇよ!リリスちゃんを助ける方法だ!」


 ペンドが苛立った様子で聞いてくる。

 俺だって助けたい。


 けど。けどな……


「取り込まれた人が自力で脱出する」


「……あ?」


「外部の人間が取り込まれた人に傷一つなくモンスターを倒す」


「何言ってんだお前……」


「世界最高レベル、つまりリリスを上回るレベルの浄化魔法でモンスターを消滅させる」


 唐突な俺の言葉に混乱しているペンドに告げる。


「これらが、リリスを、ひいてはモンスターに取り込まれた人間を助け出す手段だ」


 ……絶句しているペンドの様子が目に映る。


 それもそうだろう。この情報は限られた人しか知らない。そもそもモンスターに人が取り込まれるなんてこと、滅多に無いからだ。


「ペンドはこれを聞いても、まだリリスを助けたいって思うのか?」


 恋人として、人として言ってはいけないことを言っていることの自覚はある。


「下手なことしてたくさん人が死ぬより、リリス一人を殺した方が良いだろ」


 自分でもなんでこんなにすらすらと、全くの躊躇いもなく最低なことを言えるのか分からない。


「出来もしない俺のエゴより、確実に出来ることを……」



「……ざけ……か……てめぇ」


「ん?なんか言ったか?」



「ふざけてんのかって言ってんだよ!!」


 突然の怒号に周囲の奴らが肩を揺らして驚く。

 かくいう俺も驚いている。こんなに怒ったペンドを見るのは久しぶり、いや、初めてかもしれないからだ。


「ふざけてなんて、」


「いいや、ふざけてる!お前は、そんな簡単に諦めるような奴だったのかよ!」


「違う!」


「違わない!!出来る可能性が低いことから逃げて、自分を正当化している!お前は、そんな奴だったのかよ!!」


「っ、そうは言ったって……」


 ペンドだって分かっているはずだ。

 この状況ならどっちの選択が正しいのか。

 なのになんで……。


 そんな俺の気持ちに答えるように、ペンドが叫ぶ。


「いいや、お前はそんな最低な奴じゃない!今まで俺は、幾度となく絶体絶命のピンチをひっくり返すお前を見てきた!俺だけじゃない。ここにいる他の奴らだって、街の皆だって、お前のとんでもない実力を見た、見せつけられてきた!」


「……」


「こんなに聞いても動く気にならないなら言ってやるよ」

「好きな女も守れない奴は、恋人どころか男失格だ。すぐにでも別れな。俺達がリリスちゃんを救いだして、お前の腑抜けた姿を教えてやるよ」



 ……何かが揺さぶられる。俺の中の何かが。



「そんな姿を知ったらリリスちゃん、失望するだろうな。いいんじゃないか?腑抜けのお前にあの子は見合わないからな」


 ああ、やめろペンド。そんなこと言われたら……



「うるせぇ」


「あん?」


「うるせぇんだよ!!リリスの隣に立つのは俺だ。それ以外の何者でも、ましてやお前達なんかじゃない!」

「いいよ、そこまで言うんだったらやってやるよ」

「リリスも、街の皆も、お前達も、被害ゼロで終わらせてやる」



 ──俺が俺を止められなくなってしまうだろう?



[後書き]

こうして話すのは初めてですね。突然でかつ今更ですがお礼を。

本作を読んでくださり大変感謝しています。この物語も終わりが見え始めて来ました。残りあと少し、楽しんでくれたら幸いです。


                   by作者。

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