第9話
「霊好ちゃん…」
「…ん?ふぁ~…。…どうしたんだい?無月」
帰りの電車の中。
時間がかかるから寝ていたけど、無月がどこか不安げな様子で起こしてきた。
「なにか…おかしい…」
「おかしい?…これは…」
周りを見ると、私と無月以外に元いた乗客がいない。
その代わり、目が虚ろでどこ見てるのかわからない人が数人ほど立っている。
生きてる感じは…多少するけど、衰弱しているのか、かなり弱っている。
悪い言い方だけど、それほど長くは持たなそうな感じだ。
電車の様子も、どこか古い感じになっているし、元の場所ではないだろう。
そしてどこからか『ザザッ』と音がすると、
『次は活けづくり~活けづくりです』
不快な、アナウンスが鳴った。
男性の悲鳴が電車内に響く。
悲鳴がした方を見て見ると、猿のような小さい生物みたいなのが刃物で男性を引き裂いていた。
「ひっ…!」
「無月、見ちゃダメ」
咄嗟に無月の目を塞ぐ。
男性はもはや跡形もなく、残るのは肉片だけ。
全くもって趣味が悪い。
そして変な気配は漂っているけど、妖怪的なものじゃないから、これは恐らく怪異的なものだろう。
おぼろげだけど、今の状況と似たような話を聞いたことがある。
…猿夢だったかな。
そうだとすると、この空間は夢の中という事になる。
『次はえぐり出し~えぐり出しです』
続く不快なアナウンス。
そしてけたたましい女性の悲鳴。
今度は…ぎざぎざしたスプーンで女性の目を抉っている。
とても偽物とは思えない、生々しい光景だ。
気分が悪い。こんなものをして何になるというのか。
「無月。出来る限り、頭の中で夢から覚めるように念じてほしい。この空間は夢の中だだろうから、いずれ目が覚めてこの空間から抜け出せるはずだ」
「わ、わかった…」
私だけなら簡単に脱出はできるが、今は無月も一緒に脱出できるような手段を持ち合わせていない。
怪異は妖怪などとは違い、祓うという事が出来ない。
どちらかというと怪異は概念的なもののため、そもそもの存在が違うのだ。
『次は挽肉~挽肉です』
またしても不快なアナウンス。
『ウィーン』という機械音が近づいてくる。今度は私たちの番なのだろう。
無月は…まだ夢から覚めそうにない。
時間を稼ぐしかないか…。
変な機械を持って近づいてきた小さな猿を蹴っ飛ばして壁に激突させる。
身体能力は変わらずそのままらしい。猿は壁に激突したっきり動かなくなった。
「れ、霊好ちゃん…?」
「無月は気にせず夢から覚めることに集中して。私の方は大丈夫」
「うん…!」
『暴力は~おやめください~』
「…暴力以上の事をしているのに、よく言うよ」
こっちに突っ込んでくる猿の頭をつかみ、アナウンスが鳴っている場所、スピーカーに投げつけて壊す。
スピーカーを壊されたことで力が弱まったのか、無月が消える。
夢から覚めたのだろう。
「次、私たちにちょっかいを出したら、この列車を原型がなくなるくらいめちゃくちゃにするよ。聞こえているかはわからないけど」
脅しとして機能するのかもわからないけど。
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