第11話 『生態的バグ』
「テメェらここに何のようだ?」
横はねした茶髪の男はこちらにガンを飛ばしてきた。
怖気づきながらも、ティリタが答えた。
「ぼ……僕達、クエストでここに来たんです。街を襲うゴブリンの群れを倒してくれって……」
「で、そのゴブリンは倒せたのか?」
俺達が頷くと男は舌打ちをし、
「そうか、とっとと帰りやがれ」
男は面倒そうにそう言って、俺達の背後に歩いていった。
「待てよ」
逃がすわけねぇだろうが。
「あ?んだよ、もう用はねぇよ」
「そっちに無くてもこっちにはあるんだよ」
男は舌打ちをしてこっちに近づいてきた。
「なんの用だ?」
「それはこっちのセリフだ。お前、あの家になんの用だ?」
「あぁ?なんだっていいだろ」
「良くないんだよ」
男は俺に距離を詰めてきた。
「あの家、何が住んでるか知ってるか?」
「お前らがさっき言ったゴブリンだろ?それがどうしたんだよ」
「知ってるのか…………」
俺は改めて男を見た。
「その割には、やけに軽装だな?」
「…………何が言いたい?」
「ゴブリンが住んでるって知ってるくせに、武器の1つも持たずに突っ込むか?普通」
男はギリッと奥歯を擦らせた。
「つまりお前は、俺達がゴブリンを倒したのをどこかで見ていた、ということになる」
と、俺は思っていた。
しかし、ティリタがこう言う。
「もしくは……
なるほど。
そうなると『アレ』にも説明がつくか?
ゼロが追い打ちをかける。
「あのゴブリン達、私達を警戒する様子がなかった。つまり……何か特殊な行動しかしないようになっている」
後ずさりする男に対してティリタが言った。
「今回のクエストはアクセサリー強盗のゴブリン達を倒せというもの。人を襲わないモンスターがアクセサリー強盗なんてするとは思えない。人間に教育……もしくは洗脳されている」
男の表情に、一気に焦りと怒りが生まれた。
「あの家も、ゴブリンが建てたものとは思えないほど立派な物だ。人間が建てたとしか思えない」
そろそろ、結論を出そう。
「お前がここに来た目的……それは回収だ。お前はゴブリン達を洗脳してアクセサリー強盗をさせ、盗んだ物をここに保管させるようにした。それを今日、お前が回収しに来たんだ。違うか?」
男はズカズカと歩いてきて俺の胸ぐらを掴んだ。
「…………証拠あんのかぁ!?」
「さっき言ったよな?あの家に住んでるのは『俺達が言ったゴブリン』。つまりアクセサリー強盗のゴブリンだって」
「それがなんだよ!」
「ただのゴブリンならまだしも、なぜ
男は俺を掴む腕を震わせ、叫びながら俺を投げ飛ばした。
「黙れぇ……黙れ転生者が!」
「……お前も『転生者狩り』か」
「あぁそうだ!俺は転生者狩りギルド《エンセスター》のメンバーだ!」
エンセスター。
それが奴らのギルド名か。
「いい気になるなよ転生者共…………」
男は俺達を指差す。
「俺にはこれがあるんだよ!」
男がポケットから取り出したのは小さな赤いカプセル。マダムが使っていたものとよく似ている。
男はそれを服用し、唸り声を上げた。
「グォオオオオオ!!!」
雄叫びを上げると、男の体はみるみるうちに深緑色になっていった。
それがゴブリンであることはすぐに分かった。
こないだと同じだ。
あの赤いカプセルには服用した相手にモンスターの特徴を付与する効果がある。
「ナメるなよ……転生者ァ!」
ゴブリン男……とでも名付けようか。
ゴブリン男は足元の岩をむしり取り、俺達に向かって投げつけてきた。
「うわっ!」
なんてパワーだ。
普通のゴブリンでもそんなことしないぞ。
「フレイム!」
俺は反射的にフレイムを打つが、射程も威力も足りてない。
「フハハハハ!そんな攻撃効かない!」
ゴブリン男はドスドスと音を立てながら俺の方へ走ってきた。
「何っ!?」
俺は驚きつつも、ゴブリン男の強烈なパンチを間一髪で避ける。
殴られた場所は大きく抉れ、ゴブリン男のSTRの強さを表していた。
「くそ……ちょこまか動きやがって」
いやちょこまか動いてはいないけども。
ゴブリン男はもう一撃、俺に攻撃を加えようとする。
が、
「グアアーーッ!」
銃声が響いた。
「ごめんごめん、リロードに手こずっちゃって」
ゼロがゴブリン男をジト目で見ながら言った。
「こんな醜い姿になってまで力と金が欲しいのね…………」
ゴブリン男は背中を押さえながらゼロを睨む。
「だまれ!きさま、なにが、わかる!」
…………ん?
ある違和感を共有したいが為にゼロにアイコンタクトを送るが…………
「どうかした?」
気づいてない…………気にし過ぎか?
俺は男の頭を掴んだ。
「フレイム」
ボンッ!
珍しく大きな音を立てて発動したフレイムは、男の頭を焼くには十分――――なはずだった。
「グエエエエ!!」
男はそう言って藻掻きながら俺とゼロを攻撃しようとする。
「これは……どういうことだ?」
俺とゼロは顔を見合わせる。
するとティリタが叫んだ。
「カプセルの効果で頭蓋骨も強化されてるんだ!いつもの方法じゃ勝ち目がない!」
それでこいつは生きてやがるってわけか…………。
クソ、どうすれば…………。
「おまえ、よくも、ひ、あつい!」
………………ん??
試しに俺はあることをしてみた。
「お前…………名前は?」
男は口を開かない。
「フレイムが熱かったのか?」
男は、少し時間を置いてから
「あつい!あつい、いやだ!」
気にし過ぎではなかったようだな…………。
「ゲームオーバーだ」
俺はゴブリン男の足の付け根にフレイムを放った。
強い熱の前に少しずつ灰と化す足。
ジューと火が消えてはもう一度フレイムを放ち、また火が消え、フレイムを放ち…………を繰り返した。
ついに男の足は男の支配下に無くなった。
「ギシャアアアア!!!」
ゴブリンは叫び声を上げるが、気にせずもう片方の足をもぎにいく。
「何してるの?グレン」
ゼロがそう聞く。
「見ての通り、ゴブリンの足をもぎ取ってんのさ」
「ゴブリンの足?そんなに高く売れないと思うけど…………」
ティリタがそう言う。
「それに、そんな時間あるなら頭を直接狙った方がいいと思うけど…………」
ゼロも続いてそう言う。
もう片方の足をもぎ取った俺は、すぐにその場から立ち去った。
「帰るぞ」
「え?ちょ、ちょっと待って!」
2人は慌てて俺の方に来た。
「あの男……殺さなくていいの?」
とゼロは聞いた。
「あの男がカプセルを服用した直後…………まだまともに喋れていたんだ。だか今はどうだ、簡単な単語を並べることしかできなくなっている」
「そう、だね…………」
「それに、俺が足を狩っても逃げる様子がなかった。それまでは暴れたりしてたのに」
ゼロとティリタは顔を見合わせた。
「俺が思うに、あの赤いカプセルはモンスターの特徴を他の生命体に与える効果があるんだと思う………………が、今回はハズレだったようだな」
俺は結論を言った。
「
アイツが赤いカプセルを飲んだ時点で、アイツはゲームオーバーだったんだ。
「全く動かないゴブリンが森の中に転がってんだ。他のモンスターに喰われるのも時間の問題だろう」
俺達は馬車に乗り、街へ戻った。
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