第8話 『素材ガチャ』
午前7時2分、俺は目を覚ました。
まだ眠気が残る中、太陽は俺の顔を照らし、しつこいように朝の訪れを告げた。
ベットに座ってしばらくウトウトしていると、俺の部屋の扉がノックされた。
慌てて扉を開けると、その先にはゼロとティリタがいた。
「おぉ、どうした2人共」
「朝食の時間だから、呼びに来たんだ。初日だしわからないだろうなって」
「私も呼び出されたってわけ」
「なるほどな。すぐ準備するから待っててくれ」
俺は寝間着から普段着に着替えて、2人と共に食堂へ向かった。
朝食のフレンチトーストを食べながら、ゼロが言う。
「そういえば今朝、私の手帳にラピセロさんから連絡があったわ。私達に合ったクエストを紹介してくれたみたい」
「おぉ、まじか」
「だから今日あたり、クエストに行ってみるのもいいかなって話を、ゼロとしてたんだ」
ゼロは電子職業手帳を俺とティリタに見せた。
「…………というか、あなた達の手帳にも届いてるはずよ?」
「そうなのか?まぁいいや、見せてくれ」
「図々しいったらありゃしない」
と言いつつも、ゼロは手帳を俺達に見せてくれた。
ティリタはスクロールしながら表示されるクエストを吟味していた。
すると、1つのクエストが彼の目に止まった。
「これなんてどうかな?」
ティリタが指差したのは、アーカムの宝石店からの依頼。アラーナというモンスターが宝石店を襲撃し、巣を作ろうとしているとのことだ。
「アラーナってどんなモンスターなんだ?」
「人間大の蜘蛛だよ。いつもは地下とか洞窟とかにいるんだけど、たまに人里に出てくるんだ」
「蜘蛛かぁ…………」
ゼロは平然とした顔で頷いている。
「蜘蛛、怖くないのか?」
「怖いわけないでしょ」
「お前ホントに女の子らしいとこないよな」
「撃つよ」
ティリタが咳払いをして、話を続ける。
「普段は土とか岩とかを食べてるんだ。だから宝石の類が大好物でさ。街に出てきては宝石店を襲うだの、アクセサリーを強奪するだのしてるんだ」
「へぇ…………人間を襲うことはないのか?」
「まさか。人間を巣に連れ帰って餌として食らう事例もある。油断してはいけない」
人間を巣に連れ帰って餌として…………
考えただけでも恐ろしい。
「でも、特別強いモンスターではない。僕達なら倒せるだろう」
そうだな、と俺は返す。
「このクエストはクエスト報酬も大きいし、ちょうどいいかもね」
俺達はこのクエストを受注した。
朝食後、俺達はすぐに準備をして馬車でアーカムの宝石店まで向かった。
この宝石店は個人経営の店で、宝石の他にもつけると能力が上がる装飾品も売っているらしい。
一番の特徴はその品揃えで、市場には出回らないような珍しい宝石もあるらしい。
その品揃えが仇となってアラーナによる襲撃を受けてしまったわけなのだが。
「ここが、その宝石店か」
俺達は馬車から降りた。
外から見てわかるほど、中は悲惨な状態だった。
ショーケースは粉々に割れ、壁が崩れて木の破片が辺りに散らばり、食い荒らされた宝石たちがぐちゃぐちゃに混ざった色で輝いていた。
「この様子だとアラーナは奥の部屋にいる。できるだけ広い部屋におびき寄せよう」
「わかった。行こう、2人とも」
俺は宝石店のドアをゆっくり開けた。
入ってすぐの部屋は散らかってこそいるが戦闘ができる広さはある。
ひとまずここに呼び寄せようか。
「ゼロ」
俺の合図と共にゼロは壁に向かって発砲した。
奥の部屋から、ガサゴソと音が聞こえる。
作戦成功。
「来るぞ、隠れろ!」
全員、壁の影や柱の裏などに身を隠した。
息を潜めながら、アラーナがこちらの部屋に来るのを待った。
「…………………………」
時は満ちた。
「今だッ!」
アラーナが部屋に入ると同時に俺はアラーナの目の前に来た。
話には聞いていたが、本物を見るとやはり恐ろしい。黄色に黒の縞模様が入った人間大の蜘蛛が目の前にいるとなると、恐怖を感じない方がおかしい。
「来い、ゼロ!」
そう言った頃にはゼロは壁を蹴ってアラーナの裏側からハンドガンを放っていた。
屋内のため、フレイムは下手に乱用できない。
そうなるとメイン火力はゼロに頼る他なくなる。
「クルキャァアアア!!!」
アラーナは頭を穴だらけにしながら、その場に倒れた。
「これで、クエストクリアか」
案外あっけなかったな。
「アラーナの素材は高く売れるものもある。適当に剥ぎ取りをして帰ろうか」
そうね、とゼロが銃を太ももに収納し、サバイバルナイフを取り出す。
ちなみにこのナイフは俺が前世から持ち込んだものだ。どうせデメリットのせいで使えないしゼロにあげた。
「うわ…………いきなり目行くかよ普通」
俺が呆然としていると、ティリタが
「アラーナの目には毒がある。迂闊に触らない方がいいと思うよ」
ゼロはティリタの忠告を聞いてもなお、アラーナの目玉をぷにぷにと人差し指でつついている。
「それに、目はあまり高く売れない。お金稼ぎをしたいなら肝を積極的に狙うべきだ」
ティリタによると、宝石類を好むアラーナの肝には食べ切れなかった宝石が溶解されて蓄積される。
その宝石の種類によってはとても美しい石が生まれるため、肝を狙え。とのことだ。
「まぁ今回はハズレっぽいね……」
ゼロがそう言った時、
「キャッ!」
ゼロの体に白い糸が纏わりついた。
「…………少し考えれば回避できる状況だったのに……!」
俺は自分の詰めの甘さを嘆いた。
アラーナは複数体いた。
最初のアラーナがいた部屋とは別の部屋からぞろぞろと禍々しい蜘蛛が現れた。
その数、5体。
「グレン、これはまずい!一度引こう――――」
「いや」
俺はゼロ、及びその周りのアラーナ達を指差した。
「ここで俺達が引けば、ゼロは間違いなく殺される」
アラーナはあえてゼロをすぐには殺さない。
人質じみたことをしているのだ。
「じゃあ……どうすれば…………」
状況を整理しよう。
敵は5体、全て同じモンスター。
ゼロは糸によって身動きが取れない。
俺はフレイムが使えない。
周囲はひどく散らかっている。
この状況をひっくり返す方法…………それは何だ?
考えろ……グレン!
グレン……?
「そうだ…………!」
俺はある方法を閃いた。
閃いたけども…………。
さすがに賭けになる。
これを使えば高確率で敵を殲滅できるが、ゼロは助からないかも知れない。
それに、街への被害が出る可能性もある。
「何か……思いついたの?」
やるしか……ねぇか。
「ゲームオーバーだ……ッ!」
俺は手のひらの中心に力を込めた。
「…………フレイム!」
俺はフレイムを壁に向かって放った。
「死ぬなよ、ゼロ!」
壁に放った炎はだんだんと大きくなる。
燃え広がった炎はメラメラバチバチと辺りを包み、強い光と熱を生み出した。
「まさか……」
「あぁ。そのまさかだ」
俺にはこれ以外の打開策が思いつかなかった。
「
これが俺の結論だ。
「でも、それだとゼロまで!」
あぁ、その通りだ。
この方法だと、ゼロはもしかすると…………いや、ほぼ確実に死ぬ。
現に、炎はアラーナだけでなくゼロまでも灰にしようとしている。
糸についた火炎は焦げ臭い匂いと共にゼロを襲った。
「………………バカだなぁ」
周囲を埋め尽くす煙に、一瞬だけ風穴が空いた。
「私が死ぬわけないでしょ」
ゼロは華麗に着地した。
ゼロは糸が焦げて切れる瞬間を待ち、切れた瞬間に、自分に火が燃え移らないうちに、糸から抜けた。
「さすがだな、相棒」
俺達は全員無事のまま、紅蓮の炎に包まれる宝石店を脱出した。
数分後、火がおさまった。
そこまで大きな火事にはならなかったが、中のアラーナ達は炎や煙で息絶えていた。
「今度こそクエストクリアだな」
俺がそう言うと、
「5体もいれば1個くらい当たりあるかな?」
とゼロが肝を剥ぎ取りに行った。
「そう簡単に出るとは思えないけど……」
ティリタが苦笑いするが、
「…………2人とも、ちょっと来て」
え、マジで当たり引いたの?
ここは「当たりないんかーい」ってオチじゃないの?
そう思いつつ向かった先にあったのは、
「ねぇ……何これ」
当たりなんかよりずっと衝撃的なものだった。
火事で床板が燃えたため現れた、地下に伸びる隠し階段は俺達を嘲笑うようにそこに存在した。
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