第6話 『ギルド勧誘』
「本当なの……?『転生者狩り』が出たって…………」
少年は目に涙を浮かべながら何度も頷いた。
この焦り方と震え方、とても嘘とは思えない。
俺達は彼の話を聞いてみることにした。
少年の名前はティリタ。職業は聖職者、主に味方の回復や強化をメインとする職業だ。
そして、彼もまた転生者である。
インスマスにあるとあるギルドに所属している彼は、仲間と一緒にアーカムに向かっていたらしい。
その途中、森に差し掛かったあたりで馬車を引く馬に突然矢が刺さりそのまま後ろのティリタ達も投げ出される。
辺りを見渡すと、真っ黒い不気味な仮面を被った人間がこちらに弓を引いていたという。
その仮面は『転生者狩り』の象徴。
ギルドの中でも噂され続けていた存在だった。
馬車に乗っていた転生者は5人、敵は4人。数的有利は取っていた。
しかし、仮面の集団は的確な弓の技術や斧を用いた戦闘で転生者達を圧倒。
聖職者故に攻撃手段がほとんどないティリタには逃げることしかできなかったらしい。
それで無我夢中でギルドの本部を目指していた時、ゼロにぶつかったというわけだ。
「なるほどなぁ…………」
俺は腕を組みながらそうつぶやく。
「お願いします!僕を…………僕達を助けてください!!」
ティリタは取り乱しながら俺達に頼み込んでくる。
恐らく、この依頼を受けても報酬は出ない。
ギルドから出ているクエストではなく、単なる頼みごとだからな。
ここで依頼を受けて回復薬や弾薬を消費するのは正しい判断とは言えない。
金欠が加速するだけだからな。
だが…………
「わかった」
必死に助けを求めてきたこいつを放って置くことはできない。
俺達は馬車を手配し、問題の場所まで向かうことにした。
馬車の中で、ティリタについての話を聞いた。
彼は前世で安楽死請負医だったそうだ。
初めはただの精神科医だったが、ある日友人の自殺を目の前で目撃した患者が恐怖に蝕まれるあまり、自ら死を志願した。
もちろん最初は断ったが、その患者の容態は悪化していくばかり。
次第にカミソリで喉を切ろうとしたり、ティッシュを飲み込んで窒息死しようとしたりと、あの手この手で命を絶とうとするようになった。
ティリタはそんな患者が見ていられず、患者の家族とも念入りに相談して、ある朝、患者の隣にコップに入った毒液を用意し、「これを飲み切ったら死ねる」と伝えたそうだ。
その日の夜、空になったコップと冷たくなった患者を見て、罪の意識と同時にこれで患者は楽になれたと実感したそうだ。
その後、その話が噂として広まっていき彼は隠れた安楽死請負医として有名になった。
しかし、1人また1人と安楽死させていく日々に嫌気が差し、最後は彼自身が毒液を飲んで前世は終了した…………と言っていた。
彼は、俺達と似ているようで少し違う。
『対象に苦しめられた人々を助けるために』殺していた俺達とは違い、ティリタは『対象本人を助けるために』殺していたのだから。
だから彼は味方を助ける聖職者という役職についたのだろう。
そして彼のデメリットは
『回復魔法、及び強化魔法を自分に使えない』
である。
つまり今回の戦闘は、いかにティリタを守るかにかかっている。
パッと思いつく作戦は、ティリタの魔法の射程ギリギリに俺とゼロが出て、ティリタの強化魔法を受けながら戦うというもの。
シンプルながら、なかなか悪くない作戦ではないだろうか。
そう思いながら、作戦の改良点を探していると
ヒヒィィイイイイン!!
馬車を引く馬の鳴き声が辺りに響いた。
一瞬馬車が止まった瞬間を利用して全員、馬車から降りる。案の定、馬の足に矢が刺さっており、おびただしい量の血が出ていた。
矢が飛んできた方向を見ると、黒い仮面の集団がいた。彼らは弓や斧を持ってこちらに接近してくる。
間違いない。
あれが『転生者狩り』だ。
俺とゼロは迎え撃つように前に出た。
俺は手袋をしっかりとはめ、ゼロは太ももについたレッグホルスターからハンドガンを取り出し、それを両手に構える。
さぁ、戦闘開始だ。
仮面達は俺達に向かってもう一度矢を放つ。
しかし、
「甘いね」
ゼロは飛んできた矢を正確に、かつ迅速に銃で撃ち落とした。
そのまま回転するように敵陣に突っ込んでいくゼロ。彼女を仕留めようと斧を持った仮面達が突撃するも、何が起きたか分からないくらいの速さでそれらは死体と化した。
ゼロの周囲の敵は全て消し飛んだ。
ゼロの卓越したガン=カタによる掃射攻撃によって。
俺もそこに加勢しようと乗り込む。
俺には弓矢を持った仮面達が出迎えてくれたが、俺はDEXに幾分か振っている。
弓矢を避けることなど容易い。
相手は、俺が手に魔法具をはめたことから俺を魔法使いと断定したらしい。
そして魔法と言えば遠距離攻撃。
遠距離には遠距離を、と弓矢部隊が動いたのだろう。
その思い込みが仇となったな。
俺は近距離型魔法使いだ。
弓矢部隊に一気に近づいた俺は叫んだ。
「ティリタ!」
その声に応じてティリタは魔導書に力を込め、俺に
POWが上がって魔法攻撃に磨きがかかった俺は、弓兵の懐に潜り込んで腹にフレイムを食らわせる。
弓兵の腹は見事に焼け焦げ、弓兵はその場に倒れてもがき苦しんでいる。
それを見て恐怖を感じた他の弓兵だったが、俺は彼らがその恐怖を完全に理解する前に、さっきの弓兵と同じように恐怖の種に変えてやった。
結果、その場に残ったのは俺とゼロだけだった。
「ふぅ……これで全部片付いたか?」
と俺がつぶやくと、ゼロは言った。
「いや……まだみたいよ」
ゼロが指差す先にいるのは鎧を着た1人の男。
手には大きな杖を持っている。
鎧の頭に描かれた絵が仮面と全く同じだったことは、そいつが俺達の敵であることを示していた。
「憎き転生者め…………今すぐに我の目の前から立ち去れッ!!」
男は杖を前に突き出す。
それと同時に、強い旋風が森の中を駆け巡る。
それに巻き込まれた俺達は大きく吹き飛ばされた。
「ぐあッ……!!」
地面に転がる俺と、後方の太い木に叩きつけられるゼロ。
「2人とも大丈夫!?」
ティリタは俺の方に寄ってくるが、
「俺は大丈夫だ。だが…………」
ゼロは大丈夫じゃないだろうな。
「グレン…………ごめんね……」
ゼロは俺の方に手を伸ばす。
恐らく彼女の残りHPは少ない。
ティリタは懸命に回復魔法を唱え、ゼロを回復させる。
しかし、それでもまだゼロの体はまともに動けたものじゃない。
とどめに俺は気づいた。
この場に全員が固まっていることに。
この状況下で鎧の男が魔法を撃てば、俺達は全滅する。
かと言って、いつも通り相手の脳を焼き焦がそうにも、ゼロが動けない以上俺1人でそれを成し遂げなければならない。
アイツ相手にそんなことが出来るのか?
相手の攻撃を食らわず、相手の背後に回り、鎧を外させることができれば、勝利することは可能だ。
とはいえ、さっきの魔法から察するに、魔法の射程と範囲はかなり広い。
避けることはほぼ不可能だろう。
何か策を考えなくては………………!
そう考えている時、ティリタが視界に入った。
ティリタは無我夢中でゼロを回復している。
さっき会ったばかりの相手に対して、彼は一生懸命に力を注いでいる。
その姿を見た俺は、ある策を思いついた。
「ティリタ…………頼みがある」
俺はティリタに策を伝え、ティリタはそれを聞いて頷いた。
俺は手袋をはめ直す。
「ゲームオーバーだ」
俺はまっすぐ相手に突っ込んでいった。
これが果たして策と呼べるのかは怪しいが、こうするしかない。
もう少しカッコイイ勝ち方をしたかったな。
「馬鹿め……そのまま燃えろ!」
鎧の男は俺に火属性魔法を撃った。
俺の炎魔法とは比べ物にならないほどの高威力だった。
しかし俺は避けることをしなかった。
むしろ火属性魔法に突っ込んでいった。
「グレンッ!」
遠くから見ていたゼロが叫ぶ。
銃を取って立ち上がろうとするゼロを、ティリタが抑える。
「だめだ!君はまだ安静にしていてくれ」
「ッ…………!」
ティリタはゼロに笑顔を見せた。
「大丈夫、彼は勝つよ」
そう言うティリタが左手に持つ杖は、かすかに輝いていた。
俺が炎の中に突っ込んでいくのを見た鎧の男は、
「転生者にふさわしい最期だな」
と鎧の向こうで笑う。
だが、
「悪いがまだ死ねねぇよ!」
俺は炎を突き破って飛び上がり、男の頭をがっしりと掴んだ。
「何ぃ!?」
男は必死に俺を放そうとするが、そう簡単に離されてたまるか。
「…………無茶するなぁあいつ」
ゼロは全てを理解すると同時に、
今度はゼロがティリタに向かって笑顔を見せた。
何も、攻撃を避ける必要はない。
そして…………今の俺は、POW上昇のバフがかかっている。
「フレイム」
鎧を剥がす必要もない。
鎧ごと脳を突き破ればいいだけの話だ。
「…………これで回復は完了したけど、これからは無理しないようにね」
「あぁ、助かった」
俺はティリタの回復魔法を受け終えた。
「なかなか面白いことするじゃん」
座り込んでいる俺に向かって、ゼロが手を差し伸べる。
「だろ?」
俺はその手を取って、スッと立ち上がった。
俺達が帰ろうとしたその瞬間、ティリタが言った。
「あのっ!2人は、どこかのギルドに入っているの?」
ギルド……そういえば考えたこともなかったな。
「いいえ、どこにも入っていないわ」
ゼロがそう答えると、
「……僕のギルドに入らないか?」
そういえば、ティリタはギルド所属だったか。
「ギルドに入れば、インスマスにある寮の一室を貸すことが出来るし、弾薬等も支援できる。クエストにも大人数でいけるし、決して悪い話ではないと思うんだ」
なるほど、宿代や弾代が軽くなると考えるとギルドに入るのも悪くないのかも知れない。
「それに……君達は見ず知らずの僕を助けてくれた。君達の中にあるのは正義だ。だから、僕は君達の正義をもっと広げていきたいんだ」
図々しいとは思うけどね、と続ける。
俺はゼロと目配せをした。
少し不安だったが、ゼロは微笑みながら頷いてくれた。
「わかった。俺達はティリタのギルドに入らせてもらおう」
ティリタはぱぁっと明るくなり、俺の手を握った。
「ありがとう!」
そう言って俺の手を揺さぶる。
そこでゼロが言った。
「で、ギルドの名前は?」
ティリタは頷いて、希望に満ちた声でこう言った。
アスタ・ラ・ビスタ。
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