第51話 怪我の功名 その1
俺の生活は、朝から一変してしまった。
左腕の自由が利かなくなったとはいえ、学校を休み続ける気はない。
登校するために、そして普段どおりの朝のルーチンをこなすために、いつもの時刻に起きてリビングに降りてきたのだが。
「あ、慎治起きたんだ?」
早朝だというのに我が家に結愛がいて、キッチンで朝食の準備をしていた。
制服の上にエプロンを着ていて、長い髪は邪魔にならないように1つに束ねられている。
「腕、大丈夫?」
一旦料理の手を止めて俺を気遣ってきた。
「ああ、大丈夫だ。昨日から何度も言ってるけど、そんな心配することないから」
料理を代わりにやってくれる程度ならいいのだが、着替えまで手伝ってくれようとしたのには参った。多少時間はかかるものの、俺一人でもできるから、わざわざ結愛にやらせるようなものでもないのに。
「いいからいいから。無理しないで私に任せてよ」
結愛は俺の背中を押し、食卓の席に着かせようとする。
「昨日は、よく眠れたか?」
観念して席に座った俺は、そう訊ねる。
結愛は紡希の部屋に布団を敷いて寝たのだ。
「そりゃぐっすりっすよ~。紡希ちゃんと寝るまでおしゃべりしてめっちゃ楽しかったからね」
フライパンをじゅうじゅう言わせながら、結愛が答える。
突然決まった泊まりだが、紡希の部屋には最低限の着替えがあるから、特に困らなかったようだ。
「なんか、慎治のとこって私にとっても落ち着くみたい。人んちって感覚なかったから」
顔だけこちらに向け、にっ、とした快活な笑みを浮かべる。
「なら、いいんだけどな」
「慎治、そろそろ朝ごはんできるから、紡希ちゃん起こしてきて」
結愛に従って、俺は紡希を起こしに2階へと向かう。
結愛のために身を挺したはずなのに、結局結愛の世話になってしまっている。
俺の行動は、思ったような結果にはなってくれなかった。
まあ、あの場で敗北者を見捨てていたら後味の悪いことになっていただろうから、選択に後悔はしていないけどさ。
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