第32話 画面の向こうよりエキサイティングな布団の上 その1
最後に俺が入浴を終えると、風呂上がりの女子2人が待っていた。
高良井は、ぴったり気味な白いTシャツに、丈の短い灰色のショートパンツを穿いて、惜しげもなく長く白い脚を見せびらかすような格好をしていた。高良井の風呂上がりの姿を見るのは初めてではないが、あの時は上下ともに親父グッズのスウェットで武装していたから色気なんてゼロだったのだが、今は違う。目のやり場に困る。
一方の紡希は、紺色のパジャマ姿で、俺からすれば見慣れた格好なのだが、上着の下は何も着ていないようでボタンの隙間からちらちらと肌が見えてしまうのはどうしたものか。
リビングにある大型テレビの前には、2人分の布団が敷いてあった。あいにく、俺も紡希も普段はベッドを使っていて、ホラー映画合宿の時しか布団は使わないから、予備として押入れに閉まっている分はこれしかないのだった。
当然、2人分の布団を3人で使うわけにはいかない。
「じゃあ俺はソファ使うから。枕は部屋から持ってきてるし」
当たり前だよな。女子の布団に男が潜りこむわけにはいかない。
だが、当たり前が通用しない人間がこの場にいた。
高良井である。
「ダメだよー、一人だけソファなんか使ったら。名雲くんはここ」
高良井は、2つの布団の中央を指差す。
「そこなら、私と紡希ちゃんの間だし」
一方の紡希は、早速右隣の布団を確保して、ごろごろしていた。
「いやおかしいでしょ。だいたいそこ、布団と布団の境目だからすげぇ寝にくいし」
「じゃあ私のとこ寄っていいよ?」
「寄るかよ」
「んもう。どうしてそんな嫌がるの?」
「いくらなんでもクラスメートと同じ布団はマズいってわかるだろ?」
「えー、どこが? 名雲くんの考えすぎじゃない?」
高良井のやつ、まーたキツネみたいに目を細めて悪巧みモードに入りやがる。
「私の裸見たくせになにを今更~」
「見たんじゃない。見せられたようなもんだろ」
「シンにぃ、結愛さんは『彼女』なんでしょ? 一緒の布団で寝るくらい普通なんじゃないの?」
紡希の無垢な視線が突き刺さる。
紡希は、高良井が俺の『彼女』と信じている。
いい加減種明かししても良さそうなものだが、紡希にはまだまだ名雲家の常連客である高良井が必要だ。ここでもし、『ただのクラスメートである』という不安定な関係性を正直に告白してしまったら、高良井が来なくなってしまう可能性を考えた紡希が不安になるかもしれない。
高良井との恋人設定を、紡希の前では徹底しないといけない都合上、俺はもはや受け入れるしかなかった。
「……わかった。俺、この狭間の領域で眠ることにするな」
観念した俺は、布団同士の境目に腰掛ける。
「名雲くん、いつでもこっちに来ていいからね?」
左隣の布団で、高良井は足を伸ばしてリラックスモードだった。
「シンにぃ。今日だけは、隣でなにが起こってもわたしは見てないし聞いてないからね?」
紡希は、わかってますよ、という顔で親指を向ける。
「紡希、その気遣いはどういう意味なの? いや、言わなくていいけど」
相変わらず耳年増疑惑のある紡希を前に軽く戦慄してしまう。
「では……ホラー映画合宿を始めちゃうよ」
大仰な仕草で紡希が言って、テレビと繋いだブルーレイドライブ付きのノートパソコンにディスクをセットし始める。
そうして、初めてゲストを招いた、ただ夜通しホラー映画を見るだけのイベントが始まるのだった。
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