第9話 バート部長の過去
「で、これは何の会なんでしょうか、そろそろ教えて下さい」
一見和やかに食事が終わり、軽くお酒を楽しもうとソファーへ移動した時点で、とうとうイアンが言った。彼は、そのころになって、やっと自分を取り戻していた。シーアをチラチラみるのは止められないのだが。
「シーアからある程度はきいているだろう」
とバートがいう。
「いえ、全く聞いておりません」
「全く?シーア、馬車の中でも?」
「え、ええ、バート様と一緒の方が良いと思いまして」
「へえ、君、何も聞かずに協力してくれるんだ」
レオナルド王子が面白そうにいった。
「なんで?シーア嬢のため?」
「まあ、そうですね、色々と思うところもありましたし、、、ただただ彼、いや、シーアを助けたいと」
「僕はイアン君は協力してくれると思っていましたよ、最初から」
「最初から?いつですか?」
「翻訳部でシーアを見つけた時からさ。あれって一目惚れだったよね」
シーアとイアンは口にしていたお酒を、思わず吹き出しそうになった。
「バート様、イアンさんは私のこと男だと思っていたんですよ」
「いやあ、イアン君があそこまで強引に誰かを欲しがるのって初めてじゃないかな。絶対シーアの本当のことが知りたくなると思っていたんだ」
「そうだな、イアンは他人に興味がないからなあ」
年上二人がくすくす笑っている。
「まあ、たしかに」
大真面目な顔をして、イアンが言った。
「オレは男でもいけるんじゃないかって、初めて思ったんですよね」
「「ぶっ!!!!」」
今度は年上二人が吹き出しそうになった。そしてシーアはアワアワしている。
「じゃあ、まず、僕の話から聞いてもらおうかな、、、」
バートがゆっくりと話し始めた。
*
「つまり、バート部長、あなたはケント王国の王弟殿下であるわけですね」
「そうだよ、10才のときにこの国に留学してきて、18才で一度帰国したんだ」
「ケント国の近年の開国政策は、あなただったんだ!」
「まあ、そうだね、当時の外交や黒炎石の輸出などは僕が担当していたよ」
「あの政策は我が国でも有名だ。輸出事業の改革をして、ケント国が一気に豊かになった」
「この国で学んだ知識が役に立ったよ。おかげでかなり遅れていた教育や福祉をかなり向上させることができたんだ、急にお金を持った貴族たちの治乱騒ぎの影でね。
ただ、、、それで目立ってしまってね、国王に睨まれるようになったんだ」
シーアは悔しそうに言う。
「バート様は、ケント王国に多大な恩恵をもたらしたのに、国王一家が嫉妬したんです。王弟殿下の人気に」
「まあ、国王一家よりはマシな政治が出来るんじゃないかと、一部の貴族が暴走しだしてね」
「つまり、バート王弟殿下に王になってくれと」
「断ったんだ。僕はこの国に帰りたい理由があった。帰国したばかりのときに感じた国民の悲惨な環境もかなり改善できた。もういいだろうって思ったんだ。
でも、彼らの思いが表面化してしまってね、兄は僕に関しては容赦がないんだ」
「王権転覆を企てる首謀者だと言いがかりをつけて『死刑』を宣告したんです。あの王家は気に入らない者へ簡単に死刑を命じるんです」
その時のことを思い出したのか、悲しそうにシーアが言った。
「はあ、聞きしに勝る狂った国王だな」
「そこでだ、私が亡命を手伝ったというわけさ」
「ああ、前々からレオナルド王子が何かあったときには助けてくれると約束してくれてね。命からがら逃げてきた、というわけなんだ、
後のことを王太子の婚約者、リリシーア公爵令嬢に任せてね」
「リリシーア、、、」
「そう、シーアだよ」
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