第7話 オレを巻き込んでよ
ああ、シーアが今、オレの腕の中にいる。
彼女から伝わるぬくもりと匂いが強烈にイアンを刺激する。
自分の失ったはずのかけらが、ぴったりと合わさったような深い満足を覚えた。
「ちょ、離してください、どうしてっ」
「暴れるな、なんだか君が手に入って嬉しいんだ」
「手に入っていないし、急に!いままでと態度が違う!」
「男だと思っていたから。気持ちを抑えなきゃと思っていたから」
「あなた女嫌いだったはずっ」
「自分でもそう思っていた」
「じゃあ何?女だと分かって態度が変わるなんて、男って本当に最低!」
「君の周りにいた男はろくなやつがいなかったんだな」
「あなたもそうでしょ!!バート様は違うわ!」
イアンはいきなり身体を離した、が、両腕はシーアの腕をつかんでいる。二人の身体の間に、少し冷たい空気が流れた。シーアの瞳を覗き込みながらイアンは言う。
「バート部長とはどういう関係だ、ただの上司ではないだろう」
「急に独占欲を出さないでください、本当に仕事に関係ないことなんです」
「だから、仕事の話ではない!どういう関係なんだ」
「これを」
シーアはため息を吐きながら言った。
「これを知ってしまうと、あなたは後戻り出来ません。それに、はっきり言っておきますが、バート様とは恋愛関係にはありません」
「バート様、ね」
「お願いですから、見逃してください」
「いや、ダメだね、君たちはなにか企んでいるんだろう」
「・・・・」
「オレを巻き込んでみてよ。君が訳ありなのも、なんだかやばい立場なのも感じている。でも、君が何者であろうと、たとえ悪の組織にいようが、誰かの暗殺を企んでいようが構わない。絶対に君の味方になるから」
「どうして、、、私と出会ってまだ数週間ですよ。お互いのことも知らないのに、どうしてそこまで言えるのかわかりません」
「時間をかければいいのか」
「それはっ」
シーアと婚約者は約3年間のあいだ毎週のように会った。学校では、シーアが激務になるまでは、毎日顔を合わせた。恋人になれなくても、いい友人になれたらいいなと思ったし、なんだかんだ結婚はするものと思っていた。そういえば、最初は婚約者も優しかったな。でも、いつの間にか浮気され、叩かれ、死刑まで宣告された。
人との関係に年月なんて関係ないのは自分がよく知っているではないか。
「でも、あなたは宰相閣下の子息です。この国にとって必要な人です。下手な冒険をしてはいけません」
「僕にとって、今大切なのは君なんだけどね」
今度こそシーアは黙ってしまった。本当にイアンは侮れない。もちろん、イアンが味方になってくれたらどんなに頼りになるかは分かっていた。バートが中々動けない分、イアンが協力してくれたら事態が一気に動くだろう。
でも。
だからこそ頼りたくなかった。彼を目の前にすると、自分が弱くなったような気がする。ただの小さな女の子に戻ったような気がする。
そうやって、私の心までつかんでいくのだろう。
そして、信じたら、私はまた1人になるかもしれない。
でも。
「分かりました。バート様に相談してみます」
「本当の君に近づけて嬉しいよ」
そういってイアンは再びシーアをギュッと抱きしめた。
「だからといって、こんなこと許していません!」
とシーアは叫んだが
「怒った顔もかわいいんだよな」
という言葉に脱力した。
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