暖炉の薪



 高原のホテル

 暖炉の薪が暖かく燃えつづける横で

 リクライニングチェアにすわり

 ただ、一心に、その燃える炎だけをながめている


 パチパチと薪がはぜる心地よく響く音

 すうっと心がほどかれていく



 となりに座るその人は本を読んでいる

 腕に触れる肌が暖かい

 かすかな聞こえる息は一定のリズムを刻む


 まだ、夜は長い

 まだ、眠りたくない


「ん?」と、その人が聞く


 わたしは言葉もなく、ただほほ笑む


 完璧な夜というものが存在するのなら

 この瞬間にちがいない


 切り取ってアルバムに貼っても

 この感情だけは残せない


 あまりに完璧すぎて

 涙がほほを伝う


 その人の手が、慣れた仕草で、わたしの髪をなでる

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