海旅行編

第31話 妹たちと旅行に行く!?

 カランカラーン!

「1等でーす! はい、こちら、和歌山にある、海の見える旅館『最高温泉旅館』の5名まで無料チケットをプレゼントぉ!!」

 スーパーでのくじで、当たってしまった……。

 当てたのは朝姫だった。


「5名だって……し、仕方ないから、お兄ちゃんもついてきていいよ」

「いや、俺はいいよ。友達と行けよ」

「…………あーあ。もうマリンさん誘ってるんだよねー……いいのかなー。マリンさんを見守るのは、お兄ちゃんの義務なんじゃないのかなー。だ、大体、和歌山まで誰が運転するのかなー」


 ……こいつ。

 とうとう、マリンちゃんを口実に使いやがった。


 そんで、俺は運転するためだけに呼ばれてるっぽいな。

 いや、違う。

 久々に感じるぜ、この殺意。

 間違いない。

 こいつ、旅行中に俺を抹殺するつもりと見た。


 いいだろう。受けて立とう、妹よ。

 お前に俺を殺すことなんて、ぜーーーーったいにできない、ということをな!!!



「海だああああああ!」

「きれー!」


 叫んだのは、杏奈とすみれちゃん。

 てなわけで、和歌山県にやってきた。


 メンバーは、俺と朝姫、すみれちゃん、マリンちゃん、杏奈だ。


 つーか。


「マリンちゃん……よく来れたね。仕事は?」

「お休み貰ったの。それに、朝姫ちゃんに誘われたら、断れないよねー」


 彼女は朝姫の頭をなでなでして言う。

 一応はサングラスをして、変装はしているみたいだけど。

 いいのかよ。倉木さん、これで。


 体が震えた。

 とんでもない殺意。

 なに、これ。感じたことがない。

 朝姫とはまったく、違う。


 皆がわちゃわちゃと話している間に、背後を確認すると、茂みの中に身を隠している男がいた。

 男というか――倉木さんだった。


 なにしてんの。この人。


「倉木……さん?」

「はっ! 見つかってしまったあ!」

「見つかってしまったあ! じゃなくて……なにしてんすか」

「丁度いい機会だ、凪坂くん」


 彼は俺の胸倉を掴むと、ぐいと寄せた。

 頬に、銃口を突き付けられる。とんでもないもん持ってるよ、この人。


「マリンに手を出してみろ……肉片すら残らないと思え……! そして、彼女に僕の存在をばらした時も、同じ目に合う!」

「……わ、分かりましたから」


 とんでもないストーカーはこの人のことだった。

 いや、ただの行きすぎた親ばかか。

 いずれにせよ、関わり合いになりたくないな、これ以上は。


 まあ、安心しろ。今のマリンちゃんの手を出すほど、俺の肝は据わっていない。


 倉木さんから解放され、俺は四人と共に旅館に向かった。


 一見、四人の女性に囲まれ、うらやましい光景に見えるだろう。

 だが、お忘れなきよう。

 この中の1人は、俺を殺そうとしているのだから。

 そう、これは、体を休める最高の旅行ではない。


 殺人を回避する、地獄の旅行なのだ!


「夏……海……もう分かるな!」

 

 杏奈がにやりと笑った。

 チェックインを済ませて、外で合流したところだった。ちなみに部屋は、俺1人と、女子4人だ。

 ここは健全だ。



「海水浴だー!」

「いえー!」


 マリンちゃんも大はしゃぎだ。


「水着は持ってきたかー!」

「いえー!」


 だ、そうだ……。

 すみれちゃんと朝姫は、端の方で恥ずかしそうに頷いていた。


 後ろからものすごいプレッシャーを感じる。

 倉木さん、見ているんだろうなあ。

 メールが来た。噂の彼からだ。


『マリンの肌を見たら殺す』


 んな無茶な。

 どうやら、殺意に満ちた旅行は、更に危険度を増したようだ。

 ……サングラス、俺も買ってこようかな。


 こうして、俺と彼女たちとの、波乱の旅行が始まった。


 この時、俺は知らなかった。

 倉木さんと朝姫とは全く別の、完全なる悪意に。

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