第17話 妹とえっちな雰囲気になっている!?

 い、意味が分からなかった……。

 人肌で温め合わないといけない、とはなんだろうか。

 つまるところ、どういうことなのだろうか。


 妹がベッドで、インナー1枚になって、両手を広げている。これは何を意味すルカと言えば、抱きしめ合うということだ。

 いや、分からない。朝姫に限ってそんなことはないはず――のに、彼女の今の状態からは、抱きしめ合おう、と言っているようにしか見えなかった。

 少なくとも、俺はそれ以外の意味を知らない。


「し、しょうがなく、よ。しょうがなく。お兄ちゃんは寒がりだから……応急措置なんだから」


 顔を逸らして、「ん」と更に強要してくる。

 訳が分からない。寒いなら、脱いだばかりの服を着ればいいんじゃないか? こいつは何をやっているんだ?

 見たところ、インナーだけなので、服の中に凶器を隠している様子もない。だから、余計分からないのだ。殺すつもりがないのだとしたら、一体これは?


「わ、私だって寒いんだからね! 早くして!」


 彼女は顔を真っ赤にして、目を瞑っていた。

 あまりに無防備だ。恥ずかしがっていることが、俺にも分かる。


 いや、待てよ。恥ずかしい?

 違う。これは、恥ずかしいというより、恥じている?

 俺とハグすることを拒絶するあまり、行為そのものを恥じているのだ。つまり、本当はこんな行為はしたくない……そう、そういえば、言っていた。


 寒いから、人肌で温め合おう、と。


 そうか。これで俺が拒否れば――普通に考えて、拒否すれば、どうなるか。

 俺は寒さに耐えきれず、凍え死ぬ……!?

 慌ててエアコンを確認した。

 ついている――だと!?


 エアコンのリモコンは、確かに朝姫が壊したはず。

 あ、あれは……まさかフェイクだってのか。

 違う……違う、分かった。冷房は初めからついていたのだ。

 リモコンを壊したのは、冷房をつけるのが目的なのじゃなく、そのスイッチを消されないためだってことか。


 つまり、これで俺は、なんらかの形で暖を取らない限りは、凍死する。

 でなくても、最悪、寒さのあまり、風邪は引くだろう。

 弱った俺を殺すなんて、太った蚊を潰すほどに簡単だ。


 なんて作戦だ……! 朝姫。俺は恐ろしいよ。お前が、いつか殺し屋になってしまわないか。

 もう殺し屋としての素質は完璧だ。どうやら、お前の将来を考える必要があるようだ。

 道は間違えさせないぞ。兄の名において、決して妹には人並みの、幸せな人生を送ってもらう……! そのためには、殺し屋の素質に気付かせないためには、方法は一つだ。


 ギュッ――


「ひぇっ!?」


 聞いたこともない声が耳に入ったが、無視してそっと彼女の背中に腕を回す。


 ああ、温かい。

 温かいぞ、朝姫。

 熱いくらいだ。

 顔だけじゃなく、全身真っ赤になっているぞ。


 朝姫の心臓の鼓動が聞こえる。

 俺の鼓動も、きっと朝姫に聞こえていることだろう。

 穏やかだ。思わず目を閉じてしまうほどに、全身が安心感に包まれているかのように、心地いい。

 懐かしいな……昔は、泣いているお前をこうやって抱きしめていた。


「お、おにおにおにおににににに……お兄ちゃん……」


 壊れたロボットみたいになっている。

 少し顔を確認してやった。これ以上にとろけている。ロボットとは思えないくらいに、プリンみたいに顔がふにゃふにゃになっている――いや、朝姫はロボットではないけれど。


「て、いうか……あっつ!」


 熱いわ!

 朝姫の全身が燃えあがるように熱い……!

 なに、超能力にでも目覚めた? 手から炎が出たりしないよね?


 いや、違うだろ。

 これ、もしかして――


「朝姫、お前……熱でもあるのか?」

「お、お兄ちゃん……?」


 朝姫の目は完全に座っていた。

 こりゃ、だいぶ壊れているな。頬も耳も、おでこも一つ残らず真っ赤だ。

 朝姫は突然、目を閉じた。

 そして、唇を尖らせる。


 心臓の音が妙にうるさく感じた。

 どっちの音だ?

 分かっている。

 これは、

 

 どういうつもり……なんだよ。

 どういうつもりなんだ、俺!

 妹に欲情はしないんじゃなかったか?

 それだけは絶対にないんじゃなかったのか?


 それなのに! なのに!


 ああ、唇がプルプルしていて……つやつやしていて……。

 ここに俺の唇が触れたら、どうなるのだろうか。

 分からない。分からない。

 何も考えられない。思考が停止していく。

 理性が失われていく。

 朝姫の全身は本当に熱かったのだろうか。

 熱かったのは、俺の体ではないのだろうか。

 今となっては――もう――


 目を閉じた。

 もう、どうでもいいや。

 何もかも――


 体が傾いた。

 ドサリ、と音がして、目を開ける。

 朝姫は目を瞑ったまま、ベッドに寝転がっていた。

 俺は、その上に乗りかかっている。

 息が荒い。

 俺も、朝姫も――。

 朝姫も……?


「あさ……ひ?」


 彼女の全身は、気付けば汗だくだった。

 尋常ではないほど、汗が出ている。

 額に手を当てた。


 ありえない熱さだ……!

 熱が出ているんだ。


 瞬間、開かないはずのドアが、ゆっくりと開いていった。

 俺はゆっくりと顔を向けた。


 廊下に立っていたのは、金髪ギャル――杏奈だった。


「ろ、ロリシスコン……」


 ドアが、閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る