第11話 犯人は学校にいる!?
ストーカーの件を警察へ連絡したが、想像通りと言うべきか、警察が動いてくれることはなかった。
実害がないと、警察は動かない。分かっていることではあった。
だからこそ、俺が朝姫を守るんだ。
大学の授業を休み、朝姫にも仮病で高校を休ませた。状況が状況なだけに、今は彼女を1人にするわけにはいかない。
一応、実家にもストーカーの連絡は入れておいた。両親は驚いていたが、俺を信頼しているのか、仕事を休んでまでこちらに来ることはなかった。
『ナイトがしっかり守ってやれ』
父のメッセージを閉じて、ソファの上で不安そうにうずくまる朝姫の隣に座った。
「大丈夫か?」
「うん……でも、どうするの、これから。毎日、学校休むってわけにもいかないしさ」
「そりゃそうだ。でも、犯人さえ見つけてしまえば、後は簡単なもんだ。それに、分かってることもいくつかあるしな」
「ストーカーが、うちの学校の誰かってことでしょ?」
家に送られた手紙には、俺が高校にやってきた、という内容が書かれた部分があった。それは、あの高校にいなければ、分からないことだ。
「かつ、俺と朝姫が一緒にいたところを見ていた人物だ」
「そんなの……分かんなくない?」
「たとえば、その時間に体育館、あるいはグラウンドに出ていた人間は、まず見てないだろう。グラウンドは、校門から見て、校舎を挟んだ向こう側にあるからな」
「確かに……うーん……でも、休み時間だったしさ」
休み時間、か。まあ、だからこそあれだけはやく、俺の弁当を入れ替えられたわけだ。そうなると、体育の授業に出ていた人間は排除――みたいなことはできなくなるわけだ。
「とりあえず、朝姫から情報を出してもらう」
「情報って……私、何も分からないよ?」
「それは朝姫の主観でしかない。たとえば、だ。朝姫、お前、人気者なのか? ほら、ラノベとかでよく見る、クラスのアイドル的存在みたいな」
「そんなわけじゃん」
朝姫は呆れたような返事していた。
うーん。結構、ありえそうではあるんだがな。これこそ、朝姫の主観に過ぎない、か。すみれちゃんがいれば、はっきり分かるんだがな――すみれちゃん、か。
いや、それは後だ。
「にわかには信じがたいが……それが本当なら、朝姫は普通の高校生だということだ。つまり、お前を知る人間は、最高でも同学年――いや、入学したてなら、精々クラスメート程度に限られる!」
ひと1人の知名度なんて、そんなものだ。
ちなみに5月の時点では、俺はクラスメートさえ、まだ全員把握してなかった。
おまけに、朝姫はまだ部活に入っていない。先輩としての関係も薄く、ないとは言い切れないが、ほぼ可能性から消してしまっていいだろう。
精々、隣のクラスの男子が、可能性として入るくらいだ。
「うわあ。ゾッとするんだけど……クラスの男子に、ストーカーがいるってことでしょ?」
「それで、秘密の関係――か。随分、都合のいい解釈をしたもんだ」
ストーカーなんてそんなものだ。自覚のない悪意とも言える。
ありがた迷惑的な……いや、違うか。
こんなのは、ただの迷惑だ。
「RINE(メッセージアプリ)のグループは?」
「あるよ。でも、全員は入ってないかも」
「ないよりマシだ。確認させてくれ」
「う、うん……」
朝姫は少し緊張した面持ちで、ポケットからスマホを取り出した。そして、少しの操作の後、グループの参加者一覧を見せてくる。
男子は合計13人ほどだ。
「この中で喋ったことがあるのは? 事務的なのを除いて」
「うーん……カラオケに誘ってくれたのが、中村助弥くんと東川悟くん。後は、この前、ノートを見せてあげたのが水軍友成くんかな」
朝姫は顎に指を置いて、思い出しながら答えた。
「可能性があるとしたら、この3人、か。ついでだ。すみれちゃんにも、学校終わりにここに来れるか、連絡しておいてくれ」
「すみれちゃんに?」
朝姫は少し消極的だった。
「すみれちゃんが何か知ってるかもしれないだろ?」
「……できれば、友達に迷惑はかけたくないな」
…………。
そう呟く、彼女の声は今にも消え入りそうなものだった。
本当は怖いだろうに。本当は辛いだろうに。今すぐにでも、あの学校から――いや、ここから逃げ出したいだろうに……それでも、1人で戦おうとして、友達を巻き込みたくないと言う。
ここから逃げ出せないのは、俺が殺せていないから、だろうけれどな。
――だとしたら、俺が死ねば、朝姫はもしかしたら……いや、だめだ。
それじゃ、彼女を守ることにならない。
「分かった……確かに、ストーカーが過激な人間なら、すみれちゃんだって危ない。俺と朝姫で解決できるなら、それに越したことはないからな」
俺はそこで、少し思いついたことがあった。
「そうだ。なら、ついでに先の予定を見せてくれないか? 朝姫がどこかに出かける予定なら、ストーカーもそれを知っているかもしれない。対策が打てるだろ?」
「うん、分かった。いいよ――……って、だめ! やっぱりだめ!」
「なんでだよ!」
「妹のプライベートに立ち入らないで! 変態!」
変態のハードルが低すぎないか!?
ちょっとスケジュールを確認しようとしただけなんだけど?
「とにかくだめ!」
朝姫は言って、スマホをポケットにしまってしまった。
いや……くそっ。
ついでに、俺を殺すための算段を立てている計画メモみたいなものでも見てやろうとしたが、駄目だったか。
だが、あの反応……やはり、スケジュールには俺を殺す計画が、それはもう綿密に書かれているのだろう。いつかは確認したいが……、今はストーカー問題が優先だ。
「……で、じゃあ、あの日、お前のクラスメートの中で、校門の外を確認していた奴は誰だ? 教室内にいた男子と変換してもよし」
「そんなの覚えてないよ」
「じゃあ、逆の発想だ。教室内にいなかった生徒は誰だ?」
「うーん……国語の授業終わりだったから……、次が数Aの授業でぇ……ああ、クラス委員の茂道茂くんが、数Aのプリント運ぶために、教室から出てた気がする。女子のクラス委員と一緒に出たから、確認も取れると思うよ」
「そいつは、最初の3人に入ってないな。まあ、でも、とにかくその男子じゃないわけだ。うーん……今日はこの辺にしとくか。俺はちょっと昼から出かけてくる。そうだ……不安なら、明日も学校は休んでいいからな」
俺はそう言って、リビングを後にした。
朝姫は眉を下げていたが、それでも軽く頷いた。
さて……朝姫はああ言っていたが、このままじゃ解決できるものも解決できない。
すみれちゃんに会いに、もう一度学校に行くとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます