5 ワガママに生きる
「目」
「あ、迷わない感じね。ちょっと予想外だったよ」
「そもそも顔が可愛いし、髪綺麗で可愛いし」
「ん、もういいかな」
「あとジャージのポケット裏がちょっと見えてんのも可愛いよね」
「え」
立て続けに言われて、しゅーっと顔に集まる熱を、最後の言葉が一気に冷めさせる。慌てて目線を落とすと、黒いジャージの中に、一部だけ白いポケットの裏側が見えた。
「いつから気づいてた?」
「割と前から」
けろっとした顔で言われて、溜め息を吐きそうなのをぐっと堪える。早く言えよと言いたいが、ポケットの端を握りしめて耐える。褒められたのとはまったく別の恥ずかしさで顔が赤くなるのが分かって、汗を拭くふりをして、タオルで顔を隠した。
「ユイはさ、可愛いのハードルが高いんだよ」
タオルのせいで、ミオの言葉がくぐもって聞こえる。仕方ない、とタオルをはずすと、ミオの大きな目と自分の目が合った。
「もっと何にでも使っていいんだよ。自分が可愛いって思ったものは、無条件で可愛いの!女の子だもん、ワガママに生きていいんだよ!ボクみたいに!」
「ミオは男の子でしょ?」
「ボクは可愛いから。ワガママでもいいのー」
「なんだそれ」
口を尖らせるミオに笑いをこぼすと、ミオはキラキラした瞳で、真っ直ぐ私を見て言った。
「可愛い、は魔法の言葉だから。言うだけで、強くなれる気がしない?」
にこっと笑ったその顔は、私の知ってる誰よりも可愛い。そしてまったく根拠がないことだけど、花が咲いたような笑顔に、なんとなく、彼の強さを感じた気がした。
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